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夢を見る、ソレも決まって毎日似た様な夢。しかしどんな夢かと聞かれても、俺はその中身を上手く説明する事が出来ない。忘れている訳じゃナイ、覚えてない訳でもナイ。しかし何故だろう、そうやって見た夢の中身を思い出そうとする度、どう言う訳か俺の頭はヒドく鈍る。夢の内容を書き付けておいた記憶のメモは見つからない、ならばと開けようとしたその記憶の大本が入っている筈の引き出しはやたらと重くて開かないし、よしんば開いたとしても中に入っているモノはヒドく雑多で持ち主である俺ですら、ソレが何であるかが皆目見当が付かない。だから俺には判らない、夢の中身が判らない。ただ、気色の悪い夢であったコトだけはハッキリと言い切れる。テイストは日々違うけれども、でも言い知れない気味の悪さと言うか後味の悪さを感じる夢。昨日もそうだった。
『・・・う、あ、ああっっ!』
手負いの獣みたいに乾いて掠れた唸り声を上げて、ばっと毛布を撥ね除けて起き上がったソファ。次いで慌てて手を伸ばして擦る、すっかりと乱れて皺だらけになってしまっている、豪華な年代物のゴブラン織りのカバーの上。しかしカバーの何処を擦っても、掌に伝わるのは自分が今まで見ていた夢の中で感じていた、嫌に生温かく濡れた質感やぼこぼこした凹凸では無い、ソファの座面に添った滑らかな隆起を描く乾いた布の手触りとごわごわした織目の感触だけ。その現実に、はあっと肩で零した大きな息。次いでじいっと見つめた、コレでも昔よりかは幾分大きくなりはしたものの、でもまだ嵌められた指輪が大きく目立つ指ばかりがひょろりとした頼り無い、己の手。
眠るつもりはなかったが、でも疲れていたのかソレともここ数日やたらと頻繁に見ている件の悪夢のせいで睡眠がしっかりと取れていなかったせいか、雑務の間に少しばかり出来た時間をソファで横になって過ごしていた折、ついしてしまった短いうたた寝。だがやはり、その際に見た夢は言うまでも無く当然に『悪夢』。しかも何時も目覚めた時には大凡のコトは忘れてしまっていると言うのに珍しく、今の悪夢はどう言う訳か鮮明に脳裏にと残っていて。その内容は、何処に続くか判らない長い白い砂利道を必死になって走り続けている自分と、次々と道から生えて来てはその自分の足を身体を掴んで止めようとする、無数の血塗れの手の群れと言う何とも言い難いモノ。太陽が鮮やかに照っていると言うのに、伸ばした自分の手はまるで霧に塗れている様にぼんやり霞んで見えると言う不思議な薄暗い空間に、延々と走る真っ白い小石を敷き詰めた道。自分はその道をただひたすらに脇目も振らずに走っていて、道の先には小さな小さなドアが見えていた。でも何故か、幾ら走ってもドアに辿り着くコトが出来ない。砂利のせいで多少走り辛くはあったが、でも道は特に隆起も何も無く延々と平で真っ直ぐだし心無しか見えるドアも少しずつ近く大きくなっている様な気もしていた。なのに幾らどれだけ、ソレこそ息が上がり喉が枯れるまで走っても走っても、どうしてもドアの前まで辿り着けない。そしてそんな自分の後ろで幾らでも沸いて出て来ては指を足の様に使って走り後を迫って来る、乾いた白い砂利とは真逆に真っ赤にじっとりと濡れて光る、沢山の手首までの人間の手。その現実に、酸素不足で痛みすら覚えていた頭の隅で吐き零す。
何だ、一体ナニがどうなってるんだっ。どうして俺があんなモノに追われなきゃならない、どうして何時になってもドアに着かないっ。そうこうしているうち、良い加減走り疲れたせいかもたつき出した両足。情けなく上を向き始めた頤に、振り抜きが悪くなる腕。気持ち、身体も重く感じる。するとその瞬間を待ち構えていたかの如く、転げる様に走る自分の左の脇から飛び出して来た、てらりとした艶もくん、とした生臭い匂いもリアルな正に『筋骨隆々』と言う言葉がしっくり来る、大きく力強く逞しい1本の腕。しまった、そう思った時には遅かった。でも、ソレでもと懸命になって鉛の塊でも吊り下げられたみたいに重く鈍い身体を必死になって動かすが、結局はその手にがっしりと肩を掴まれ、受け身もナニも一切取れないまま引き摺り倒される、砂利道の上。次いでそうやって倒れた自分に向かい、我先にと襲いかかって来るのは後ろに屯(たむろ)していた例の無数の赤い手の群れ。ソレは良く見れば大きかったり小さかったり、細かったり太かったりと種類は様々。しかしどんなモノも皆一様に、真っ直ぐに自分だけを狙っている。そんな、真っ赤な津波みたいに見える生臭い蠢く塊に成す統べ無く飲まれて行く、小さな自分。勿論、ただ黙って向こうのされるが侭になっていた訳じゃない。しかし幾ら払っても払っても、自分に飛び掛かる赤い手の勢いは一向に衰えない。そして結局、抗いも虚しく喉を押さえ付けられ手足の動きを封じられ、目元に掛けられた指先は今にも目玉をくり抜こうとじりじりと捻り込まれる爪先の動きを感じながらも、でもナニも出来ずにいる自分。その時、脳の奥を揺さぶる様な低さながらも耳にも胸にもハッキリと聞こえた声。
ー ボスであるお前にこの先、白い道なんかあり得ない。お前が歩くのは赤い道だ ー
そうか、コレはきっとこの先、自分が殺すのだろう人達の姿なんだ。彼等が零す、断末魔の声無き声がカタチになったモノだ。赤い道の『赤』は勿論、血の色。そう思った瞬間、ざっと背筋を走り抜けた冷たい痺れ。同時に胸の奥からじんわりと滲み出し喉を焼くのは、言い様の無い臭気を熱を孕んだ波みないなモノ。そしてまた、自分を襲う手と同じくらいに沢山の声で繰り返される、先程の科白。お前にあるのは赤い道、白い道はもう続かない。そして幾ら拒んでもお前の全ては赤く染まるし、ドレだけ洗い流してもお前に付いた赤は落ちない。何故なら既に、その赤はお前の身体の隅々にまで滲みてこびり付いているのだから。だから落ちない、落とせない。そうしてお前は、いつか赤い闇に落ちる。全てを飲み込む紅い闇に、心も身体も堕ちて行く。そんな声を、新たに伸びて来た小さな小さな、どう見ても子供の手だとしか思えない紅葉みたいに真っ赤な手に口の中の探られそして子供とは思えない程の激しい力で舌を握り潰されつつ、ぼおっと耳に通す俺。ボスである以上、濡れ仕事を避けて通るコトなんて出来ないコトは判ってる。この稼業、口だけで片付くコトよりも拳を命を突き合わせなければならないコトの方が遥かに多いってコトも重々承知。しかしこうも面と向かってその現実を吐き付けられると、サスガに胸が悪い。何時までも白いまんまでいたいだなんて、甘いコトは決して言わない。でも俺だって、好んで血を流している訳じゃナイ。避けられる争いならば避けたい、救える命ならば救いたい。力の無い者の側に長く居た俺だ、傷の痛みは疼きは誰よりも良く知っている。だから敵だろうが味方だろうが、誰のコトだって傷付けられずに済むなら傷付けたくナイ。そう、何時だってそのコトを強く強く望んでいる、でもっ。そんなコトを、開けっ放しの窓から入る風のせいで涼やかに保たれている筈の部屋だと言うにも関わらず、じっとりと滲んだ汗で貼り付くシャツのボタンを千切らんばかりの勢いで幾つか外した後、喉元のネクタイを手荒に緩めて抜き取り投げ捨てつつ、誰に言うとも無く小さく吐き捨てた時だった。
『・・・綱吉、大丈夫か』
声と共に、後ろからそっと手を掛けられたシャツの肩。その声と感触にぎくりとなりながら振り返ると、ソコにいたのは見慣れた友人の顔。何時もは触れたら切れそうに鋭い切れ長の眼差しを不安気に柔らかく歪め、黒光りする鞘に納められた一振りを手に背を屈めこちらを見つめている。でも俺は、どうして彼がココに居るかが判らない。今の時間ならば、彼はココではなく市街のオフィスにいる筈だし、ソレより何より独りになりたいからと、部屋に入る際に人払いだって。するとそんなこっちの胸の内を察したのか、今までの表情をふっと崩しながら身体を起こした彼が、俺が足を伸ばすソファの背に軽く腰を掛けた後、ゆっくりと話し出す事の経緯。ナンかさ、ふと街でこのヴィラの方から流れて来た雨雲を見てたら感じたのな、綱吉に良くないコトが起きてるって。だから来てみたら、窓からソファで眠ってるお前を見付けて。言いながら、手にしていた愛刀をソファの背にぶらりと下がった足へと凭れさせる仕草。そしてまた、静かに言葉を紡ぐ横顔。その時は取り越し苦労だと思った、でもお前、急にヒドくうなされ出したからついつい、窓から部屋に飛び込んだ。そしてココで見守ってた、お前が目を覚ますのを。ソレはいかにも、彼らしい行動だった。しかし俺は、そんな彼の言葉に行動につい、くすりとちくりと苦笑と苦言を洩らす。見守ってたって、言葉は良いけどナニそれ、趣味が悪いな。うなされてるって判ったなら、すぐに起こしてくれれば良いのに。すると返る、静かな声での意外なヒトコト。そうは思った、でも。
『でも悪い夢は、途中で起こさない方が良いって言うから』
『そう・・・、なの?』
ああ、悪い夢は途中で起こさず、最後まで見せちまう方が良いんだと。そう呟き立ち上がり、先ずは脚からソファの肘掛けへと変えて預けて置いた愛刀。次いでゆっくりと自分が脚を投げ出しているソファの前へと回った後、空けた手で床に落ちていた毛布とネクタイとを拾い上げて毛布は手早く畳み、向かいのソファへと放り投げネクタイはくるくると綺麗に丸めて纏めて、テーブルへと置く仕草。ソレからそのテーブルにあった、薄い汗を纏ったすらりとしたラインも美しいベネチアガラスの水差しから注いだ水を満たしたグラスを渡して来る、水差しと同じくらいにしなやかな指先を持つ指輪の似合う細身の手。ソレを受け
取りながら、ぽつり。その毛布、山本が掛けてくれたの。問い掛けには、こくりと首が縦に動いた。ああ、寝汗を掻いてたみたいだから、冷えたらいけねえって。窓を閉めれば良かったんだろうけど、でも音を立てたらきっと起こしちまうって思って。そんな、彼らしい言葉にようやく抜ける、全身の強張り。そして手のグラスの水を少しずつ喉に入れながら促す、途切れた会話の続きとソレに答える、同じ様に水を満たしたグラスを傾けている顔。ねえ、さっきのハナシ、ナンで悪夢を途中で起こしたらイケナイの。ああ、何でも夢を途中で切ると切られた夢の続きが次の夢を犯しちまうんだと。そして本当は悪夢じゃ無い筈の夢までも、悪夢に染めちまう。単なる迷信だとは思うけど、でも何かずっと頭に引っ掛かっててさ。ふうん、そんなハナシ初めて聞いた。ちなみにソレ、誰が言ったの。さあ、俺は小さい頃に婆ちゃんから聞いた気がするけど。はは、お婆ちゃんね(笑)
『でも参るな、ソレは・・・』
飲み終わったグラスをテーブルに置きながら、ふっと零す小さな声。次いで、言葉に驚いたのか再びこちらを不安気に見た顔に向かい、苦笑混じりに私語(さざめ)く言葉。聞かなきゃ良かった、そんなハナシ。だって、山本が言ったコトが本当ならどんな酷い悪夢でも最後まで見なきゃならなくなる。ソレって結構キツい、堪んないよ。そして再び、水差しから注ぐ少しばかり薄荷とレモンとを入れてある冷水。別に彼を攻める気持ちなぞはなかった、でもコレでも一応
(似合わないのは重々承知ながらも)日々少しでも上に立つ者としての威厳や風格を意識して振る舞う様にしている自分の、言うなれば『悪夢にうなされる』
なんて言う少々幼くみっともない姿を見られてしまった事への、ちくりとした嫌みみたいなのは込めてみた。しかしだからって、ソレ以上の事は何も別に。だが相手は意外にも、そんなこちらの態度と言葉とを真面目に額面通り受け取ったらしい。その証拠の様に、じわりと漂ったのは重苦しい沈黙。ぴたりと動きを止めてしまった、持っていたグラスを緩やかに回す動きを紡いでいた手先。しまった、失言だったと思った時にはもう、空気は固まっていた。でもだからと言って自分には、こう言う場合の上手い立ち回り方なんて判らない。なので目に付いた、再び水を満たしていたグラスを手に取りまるでやけ酒でも飲む様に、気が利かない自分を自嘲するみたいな笑みで煽ろうとした時。
『だったら、俺が一緒に寝てやるよ』
『え?』
変なハナシを聞かせた詫び、綱吉が悪い夢を見なくなるまで、俺が一緒に寝てやる。そんな彼の言葉に一瞬、手を止めた隙を付き奪われたグラス。次いで一気に煽られて空けられたグラスをごん、と音も荒くテーブルへと置いた後、零れた水に濡れた口元を手の甲で拭いながら笑う彼が言ったヒトコトに、思わず見開いた瞳で見つめてしまった自分。その自分の髪をくしゃりとかき混ぜながら、心無しか少し早口で彼がまた言う。ナンだよ、あ、言っとくけど変な意味じゃ無いからな。ソレに俺、こう見えて案外と寝相も悪いし。だからまあ、実際に一緒のベッドじゃあ寝られないだろうけど。でも。
『でも安心しろ、傍にいるから』
傍にいる、ずっとお前の傍にいる。だから安心しろ、そしてゆっくり眠ってくれ。そんな言葉と共に、また柔らかく撫でられた髪。その音色に、指先から伝わった温もりと彼の気持ちにすうっとまるで潮が引く様にして去って行った、胸に燻り続けていた冷えた熱。次いで途端に全身に満ちて来たのは、何とも言い様が無い程に心地良い眠りの波。そんな、雨の紋章を抱く彼に相応しいしっとりとした雰囲気に包まれながら、脳裏でぽつり。ああ、この手が声があれば俺は眠れるかも知れない。もう二度と、あんな酷い夢は見ないで済むかも知れない。例え見たとしても、きっと彼の『雫』があの赤を洗って流して、少しは薄くしてくれる。だったら耐えられる、例えどれだけ己の足元が手が赤く染まっても、俺は耐えて歩いて行ける。そう思った、しかし。
「タバコの匂い・・・?」
あの時はその場限りの冗談だとばかり思っていたが、律儀な彼はその夜から本当に俺の傍へと来てくれる様になった。そしてコレもまた言葉通り、ずっと傍にいてくれた。どれだけ忙しかろうと疲れていようとも必ず毎晩、俺の元へと顔を出し他愛ない話をしたり時にはお互い余り得意では無いにも関わらず成り行きでつい空けてしまったワインを片手に、月を眺めたり星を数えたりもした。でも、ソレでも俺は悪夢を見る。しかもその夢は、今まで見て来たどんな夢より後味、寒さ共に比べ物にならないくらいに酷い悪夢。何故ならソレは、彼をこの手から喪うと言う夢だから。でも大丈夫、コレは夢。現実なんかじゃ無い、何時
かは必ず覚める夢だと信じていた。
「獄寺くんと、したの・・・?」
『一緒に寝てやる』と言った時、彼はすぐに『変な意味じゃ無い』と慌てた様に俺に言った。でも弱い俺は結局、彼が俺を安らかに眠らせる為に開いてくれたその優しい腕(かいな)と温かい胸の温もりだけでは満足出来ず、彼の中まで欲しがった。俺を包んでくれる、腕よりも胸よりも優しくて温かい彼の心の深いトコロに半ば無理矢理に自分の存在を捻り込もうとした。しかしソコには既に、俺じゃナイ誰かの影がぼんやりと焼き付いていた。しかもその影と言うのは皮肉なコトに、今こうしてココで俺を癒してくれている彼と同じくらい俺が信頼している大切な人物。硝煙と火花でその身を飾り、銀色の毛並みを逆立て高らかに唸りを挙げる野生の獣みたいなオトコの姿に良く似ていて。ソレは正に、俺にとって今までに一度だって見たコトが無かった本当の意味での『悪夢』そのもの。ベクトルは違えど、どちらも自分に取っては何よりも大切な存在。誰よりもイチバン近くで誰よりもイチバン長く自分を支え、護り続けて来てくれたふたり。だから焦り、そして困惑した俺は乱れる胸のうちは何とか隠しつつ、折りを見て彼の心にいた『影』本人の心の中も読み解いてみた。無論、違っていてくれ、コレは彼だけの片恋であってくれとの淡い期待を抱いて。しかし俺の想いは逢えなく玉砕、覗いた『影』の心の中にあったのは彼の姿。生き方そのものと言ったカンジの、すらりとした白刃を手に立つしなやかな細身の長身。
「どうしてオレの方が、二人のコトを判っちゃってるんだろ」
だが幸か不幸かまだ彼も影本人も、自分の中に住む互いの姿には気付いていない様子。でもだからと言って安心は出来ない、本人達に自覚は無くとも深いトコロで惹かれ合っている心は少しずつ、双方の中でその存在の色をカタチを段々とハッキリと表現し主張し始めている。この侭では何れ必ず、ふたりは胸の中の姿に気付く。しかも恐らく気付いてしまったら最後、彼等の想いは一瞬にして強く固く繋がる。口では何時も散々なコトを言ってはいるけれど、でも内心じゃあその実力を素直に認め合っているふたりだ。互いが互いを求め合ってたって判ったらどうなるか、その結果は火を見るよりも明らか。俺なんかの出る幕は入り込む隙は、何処にも無い。そう思った瞬間、正に俺の心にどん、と鈍い衝撃を立てて突き刺さったのは鈍い光を放つ大きな鋏。その鋏が、ぎらりとした二枚の刃をかちかち鳴らしながらお前はどちらを切るのだと迫るのは、自分の気持ちは砕いて流し、ふたりを同じ鞘に納めてやると言う選択に繋がる糸か、ソレとも自分の全てを抛(なげう)ってでも彼を奪い取って傍に置くかと言う選択に繋がる糸かと言う、どっちを選んでも俺には先が無い二本の糸から成る究極の選択。恐らく、自分が『ボス』として『命令』を下せば例え胸に別の誰かを抱いていたとしても、彼は進んで自分の足元にと膝を折り自分の全てを受け入れてくれるだろう。そしてもうヒトリの彼も『ボスの命令』ならばと、自分の気持ちは押し殺し静かに彼を引き渡してくれる筈。でもソレじゃあダメだ、ソレはただのオモチャの受け渡し。死んだ心を中に詰めた、見てくれだけは彼そのモノな人形を使った淋しいヒトリ遊びに他ならない。そう脳裏で呟きながら、見つめる利き手の右手。だったら俺が切るべき糸は、何もせずとも決まって来る。俺が諦めれば、全ては丸く収まる。大体いつだって願ってたじゃないか、誰のコトだって傷付けられずに済むなら傷付けたくナイって。でも彼だけは、どうしても山本だけは誰を傷付けても渡せない。例え相手が彼であっても、ふたりが密かに強く強く惹かれ合ってたとしても、素直に見逃す事は出来ない。だって、山本だけが変わらないんだ。山本だけが俺をあの頃の侭の『綱吉』として見てくれている。まだこの手を数多の命で赤く染める前の、だらしなくて弱虫だけれどもまだ誰の事も傷付けた事が無かった、白い綺麗な手を持ってた頃の『俺』と同じに接してくれている。だから喪いたく無い、その為ならば何だって出来る、いや何だってしてやる。どうせ血塗られた道だ、ソコに新しい染みが少しばかり増えたって今更。ソレに山本を手に入れる為に被る泥なら返り血ならば、幾ら浴びても俺は何とも思わないし。そんな事を、俺と同じ様にソファに脚を投げ出し片手で頬杖を付き、でも俺とは全く違う安らかな表情を浮かべて眠っている姿を一頻り見つめた後で潜り込んだベッドの中で思う俺。
そしてまた、俺は今夜も夢を見る。ソレも生きながらに胸を裂かれ、赤く疼く心臓に焼けた刃を突き立てられているかの如くに酷い痛みと苦しさを伴う悪夢を。そんな悪夢を見ずに済むにはどうすれば良いんだっけ?
”・・・ああ、そうだ、そうだった”
ーー 悪夢を見ない為には、山本と一緒に寝れば良いんだったね。
2008/12/23
『L.l.e.l -
夢魔
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本当は秋のオンリーに本を出す相方さんへのささやかなエールのつもりで書いてたネタでしたが、久しくキーを打ってなかったせいかソレとも元々才能が無かったせいか(こっちの説が有力・笑)でズルズルと伸びてしまい結局、年も大分押し詰まった今の季節に日の目を見る事になりました(苦笑) 相変わらず途中までしか原作を読んでいないと言う、ファンの風上にも置けない私の実に勝手な思い込みで書いてますので、色々と至らないトコロは多いかと思いますが、その辺には目を瞑って頂けると幸いか、な?ナンて。
獄寺や山本と違い、最初から強かったり自分に自信があったと言う訳では無いツナ様は、ボンゴレのボスとなり誰もが認める地位と権力を持っても、常にこう
言う葛藤を抱えているのでは無いかと思います。弱い立場にいたからこそ、力を持っても力に怯えている。そして力に傷付けられる痛みも知っているから、敵
とは言えども無闇に傷付けたりはしたくない。だから出来るならばふたりを黙って見守りたかった、でもどうしてもどうしてもソレは出来なくて。山本だけが自分を昔の『綱吉』の侭で扱ってくれる、そんな山本を幾ら相手が獄寺であっても渡したく無い、盗られたく無い。その為ならば何だってする、何だって出来る。皮肉にもツナ様にあと一歩足りなかった冷酷な強さみたいな面を引き出したのが、山本を巡る獄寺とのこんな攻防戦だったりしたら切ないなと。
・・・うん、難しい事を考えたら眠くなりました(笑) なので今回はこの辺でw
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本当にこんなに凄い小説を書いていただけて、大感激です…!
ツナのボスであるが為の葛藤や、ツナが一番信頼している獄寺と山本に対する複雑な感情が、読んでてもう、切ないです…!も、ラ・ルーチェ〜の全てが詰まってるような、そんなお話しなんじゃないかと!!つか、自分の漫画無い方がいいぐらいですよ、真剣に(笑)
そして、こちらの作品、一度頂いてたお話に、またメセでお話しした事を付け足して下さったり、自分の漫画が判り辛い所為で、お話しのとあるエピソードを変えて貰ったりと、本当に色々ましゃさんにはお手を掛けていただいた、作品です…!色々お忙しい中本当にありがとうございます!!
ラ・ルーチェ〜は、ましゃさんとのメッセでの会話から生まれた、いわば二人で作ってる作品でもありますので、こうやってラ・ルーチェ〜で、ましゃさんの書かれた小説を読める…ということは、なんといいますか…感無量です。それ以外に上手い言葉が出てきません。
本当にこんなに素敵なお話しをありがとうー!!
漫画の続きも頑張らないとなーと、本当に読み返しながら思いました。早くラストのあの台詞が描きたいんだ!(笑)
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