前回の拍手お礼の続編のようなものです。
読まれてない方はNOVELの『野球バカの憂鬱』を先に読まれてくださいv


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 ひたりと額に冷たい感触を覚え、獄寺はベッドに横たえていた己の身体を勢い良く跳ね起こした。と同時に横から頭を揺す振られるような強い眩暈を覚え、跳ね起きて屈曲した上体をそのままに再び身体をベッドに横たえる羽目に陥る。

「っ…てぇ……」

 顔をシーツに埋めながら、そういえば朝方まで野球バカのセクハラ体験談に付き合って、ついつい飲み過ぎてしまったのだった…と、この酷い頭痛の原因に思いが至る。

「ったく…あのバカの所為で……」

 と、思わず恨み言を吐いたその時、頭上からその頭痛の原因を作った野球バカと呼ばれる山本武の声が聞こえた。

「あ、起きたか?獄寺…気分はどうだ?頭痛くねぇか?吐き気は大丈夫か?」

 先ほど感じた冷たい感触は、どうやら山本が二日酔いになっているであろう獄寺に気を遣って冷えた濡れタオルを額に当ててくれたものらしい。だが、その所為で目が覚めた獄寺としては、もう少し寝かせておいてくれればこの不快な気分も少しはマシになったんではないかと、昨日からの恨めしい気持ちとが相まって、つい毒のある言葉を吐いてしまう。

「ったく…余計な事しやがって…てめーの所為で目が覚めちまったじゃねーか…つか、まだ帰ってなかったのかよ」

 悪態をつく獄寺に少し困ったような笑みを浮かべながら、山本は手にした一人用の土鍋の乗ったトレーをコトリとサイドボードに置き、何時の頃からか山本が獄寺の部屋に持ち込んで置いたままにしてある深い青をしたエプロンを脱ぐ。

 ああ…エプロンの下は裸が良かった…等と、獄寺は心臓の拍動に伴い痛む頭の隅でぼんやりと考える。

「はは…わりぃ事しちまった…ごめんな、獄寺」

 山本の笑顔に色々な種類があると気がついたのは、何時からだっただろうか。
 今のは、獄寺が発した言葉をそのまま額面通りに受け取り己を責めている、でもそれを悟らせたくないが為の笑顔。
 出来れば獄寺が見たくない種類の笑顔であったが、己の言葉がこの手の笑顔を山本に一番させている自覚もあった。
 若干後悔の念のようなものが湧き上がってきて、もう一度目を閉じたその時、追い討ちをかけるかのような山本の声が聞こえた。

「オレ、今日はこれで帰るな。ホント…昨日はありがとな。あ、そこの土鍋は雑炊入ってっから…気分良くなったら食べて」

 その言葉にハッとして、山本の表情を伺おうと、一旦閉じていた目をこじ開ける。
 山本はもう、後ろを向いて帰り支度を始めていたため今どんな顔をしているか見る事は叶わなかったが、どうせ困ったような、先ほど己に向けたのと同じ笑みを浮かべてるのであろう。

 悩みを打ち明けて楽な気持ちになりたかった筈の山本に、量らずも逆に気を遣わせてしまった事が獄寺は不甲斐なく、そう思ったら取り繕う感情よりも早く、獄寺の口が言葉を発した。

「ま…待て…山本!冷えた雑炊なんかオレは食わねぇ…だが、…まだ自力で食うのは辛れぇ…」

 背後から自分を止める声がして、振り返った山本はきょとんとした表情のまま、肘を突いて半身をベッドに起こし喋る獄寺を見つめる。

「う…ん?」

「ま…まだわかんねーのか!!てめーはっっ!!」

 本来、この言葉だけで獄寺の真意を汲み取れなかった事で山本を責めるのは理不尽でしかないのだが、獄寺特有の照れ隠しも相まって、益々語気は強くなる。

「てめーの所為でオレは二日酔いにまでなって、挙句起きなくてもいい時間に起こされちまったんだ!しかもその上作った雑炊はそのまま置いて、ハイさよならかよ!作ったら最後まで作った相手においしく食べてもらえるように責任を持て!!!」

「え…っと…それは…あったかいうちに雑炊は食べたい…って事だよ…な?」

 核心を微妙にはぐらかす獄寺の言葉をひとつひとつ拾い、山本は答えを導き出そうと試みる。
 しかしその答えに獄寺は満足がいかなかったのか、再び強い口調で今度こそ己の口で答えを告げる。

「ああっ…!!もう、いいからとっととその雑炊をお前の手で…この際口でもいい…オレに食わせろ!!」

 そう一際大きい声で叫んだと同時に、己の思った以上に大きくなった叫び声と、思わず「お口あ〜んで食べさせろ」と本心を吐露してしまった事に頭が痛くなり獄寺は再びベッドに突っ伏した。

「獄寺…」

 先ほどまで遠くに感じていた山本の声が、いつの間にか頭の上で響く。
 それと同時にふわりと獄寺の頭に山本の手が置かれた。

「ありがとな…オレ、獄寺の気分が良くなったら、また雑炊作るから…無理しねぇで…」

 無理してんのはてめぇじゃないのか!という言葉をぐっと押し殺し獄寺はまだ痛む頭を起こし、土鍋と共に運ばれた小皿とレンゲを山本の前に無言で差し出す。

「食えば少しは気分も良くなっから…とっとと食わせろ…」

獄寺がそう言うと、控えめながらも花が綻ぶというのはまさにこんな事なんだろうな…と、思わせる笑顔で「ん!」と小さく山本が頷いた。


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「はい、あーんして、獄寺」

「ばっ!!!そんな萌え台詞を臆面も無く言うんじゃねぇ!!」

「も…もえ…??良くわかんねーけど、なんか新婚さんみたいな台詞言っちまったのな!」

ははは!と豪快に笑い飛ばす山本だったが、新婚という言葉を聴いた獄寺は、思いのほかその言葉が己に甘く響き、また違う意味で酔いが回ってしまいそうなのであった。



END
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相変わらず、文章になってない文章ですみませんでした。
いじっぱり獄寺と天然さんな山本な組み合わせが大好きです!