「卓人、涼しくなってきた。校舎に戻ろう」 「・・・もう少し・・・・」 「そうか。だがあまり根を詰めるな。その・・・俺の絵なんて何時だって描けるだろう?」 「・・・ネクタイを解いて・・・襟も緩めて・・・木陰で居眠りしてるお前なんて・・・そうそう描ける物じゃなかったから・・・」 そう言うと卓人は、先程寝入っていた姿勢そのままに、身体を木に預けている篠宮の姿を見ながら再び鉛筆を走らせる。 卓人は篠宮だけを見詰め、篠宮もまた卓人の視線を存在を全身で感じる。 鉛筆と紙の摩擦音がやけに大きく響くのは、きっとここが周りから切り取られた世界だからだろう。 ふと、先程まで響いていた、鉛筆を滑らせる音が止む。どうやら絵は、完成を迎えたらしい。 それと同時に周りの空気が一斉に流れ始める。 秋の冷たい風も再び二人の間を滑り始める。 「寒くなってきたぞ、卓人」 ぶるっと身を震わせながら篠宮は、そう言って室内に入る事を促す。 「・・・ん・・・そうか・・・??」 小首を傾げ卓人は曖昧な返事を篠宮に返す。 実際卓人は、創作に没頭すると、周りがどういう状況に陥ろうが頓着しない。 「た・・・卓人!?」 「ん・・・本当だ・・・俺より冷たいな・・・篠宮」 卓人は、いきなり篠宮の首筋に頬を寄せぼそりと呟いた。 卓人は、ほんのり自分より体温が低く感じる篠宮が心地よく、篠宮は自分の冷えた身体に熱を運んでくれる卓人の温もりを離し難く。 何時までもこうやって寄り添っていられたらと、何時までもこうやって居る訳にはいかないと、二つの相反する感情が二人の内でせめぎあう。 そうやって、お互い甘い鎖で縛り合い、いつしか身じろぐ事さえ出来ずにいる・・・。 『・・・だけど、それでも今だけは・・・』 二人はただ、お互いの体温を貪りあう為だけにそっと目を伏せた。 END?
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