「お前が俺を捨てたりしたら」

そうだな、俺は泣くかもしれない。ソレはうとうととしていた耳に飛び込んで来た、思い掛けないヒトコト。

「泣く・・・?お前がか?」

ああ、泣くな。きっとみっともなく取り乱して泣き喚く。
今はメガネをしていない、つんと尖った横顔が零す意外な言葉。
お前の名前を泣きながら呼んで叫んで、正体を無くす程に荒れるだろう。

「そんなコト・・・」

信じられないか?言おうとしてた言葉は、先に取られた。
やれやれ、気配りが得意な様でも、意外と真実を見てはいないらしい。

「俺は意外と小心者なんだぞ」

だからあれこれ策を練る、裏から手を回す。怖がりなんだ、こう見えても。
そんな独白を、闇を見ながらぼおっと聞く。



『オ前ガ、俺ヲ、捨テタリシタラ』



そんなコト、あるんだろうか。いやしかしソレ以前に、何かあったら捨てられるのは、俺の方だろうに。
俺には西園寺みたいな見た目も、丹羽程の実力も啓太の様な愛らしさもナニも無い。しかもお前が俺をそうやって捨てたとしても、きっと代わりはすぐ見つかるだろう。お前に寄って来る人間は幾らでもいるんだ。俺なんかよりももっと大人しくて素直な、可愛げのある恋人だって出来る筈。きっとそうだ、そうに違い無い。その刹那、





”・・・え?”

頬を滑る、冷たい感覚。何だ、コレは。内心で酷く焦りながら、でも隣で気怠るそうに煙草を吹かしている顔に気付かれない様、そおっと手を当ててみる。指先が感じた、細い流れ。ソレを辿って着いた先は、自分の切れ長だと言われる目元。
じゃあコレは涙?まさかそんな、一体どうして。

「何だ、ナニをごそごそしている」

見つからない様に極力気を使ったつもりだが、結局は察しの良い背中に感付かれてしまった。
すうっと伸びて来た手が窘める様に、髪を額をと順に撫でて。そして、

「・・・どうしてお前が泣くんだ」

濡れた頬を探られた。薄暗くて顔は良く見えないけれども、でもその声は自分でも理解出来ていないこの涙を、明らかに訝っていて。だから思わず、毛布を被りながら突っ慳貪に切り返す。

「知るか、そんなコトっ」

バカだな、たらればの寝物語だろう?冗談にもならない。うるさい、冗談にもならない様なコトなら言うな。
この姿には自分でも、呆れを通り越して情けなさすら感じている。いつから自分は、こんな風になってしまったのだろうか。よりにもよって、こんな人物が消えたりいなくなったりするコトに怯えるだなんて。でも涙はどうしてか少しも止まらなくて。
別れは何時も身近にあった。最愛の弟に何時も付き纏っていた。だから人と親しく接するのは苦手だった。規律や礼儀と言ったミエナイ壁で、一線を画していた。その壁をあっさり壊して入り込んで来た、長身。無遠慮でデリカシーが無くて、でも圧倒的なカリスマと自信を持った伶俐な顔。そんな、不安や恐れとは最も縁遠いと思えた人物がほろっと零した、脆い一面。
そして判った、自分の中でこの人物の存在がどれ程大きくなっていたかを。そんなコトは認めたくなかったけれども、この止まらない涙はそんな強がりを全て何処かへ押し流してしまって。

「・・・悪かった」

長い腕が毛布ごと自分を抱き締めて、大きくて綺麗な手がまた頬を髪をそおっと摩った。その優しい感触と体温は結局、涙を煽るばかりではあったけど、ソレでも少しは気分が落ち着いた。

そして柄にも無く、この手がいつまでもこうやって傍らにあってくれるコトを願ってしまった、春の夜。



『早春賦』




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最近、どうにも甘くていけません(笑) いやもう、倒れそうです。
こんなんで良いんだろうか、じっとモニターを見つめます。
乙女過ぎます、マジで。そして鬼畜はドコにいったんでしょうか。
ナゾです、はい・・・(逃):葉月ましゃ


鬼畜も最高ですが、甘い中篠も最高ですよ!
中嶋の見せた弱い一面に私までクラクラ来ました(笑)
普段ふてぶてしいぐらいまでの中嶋が、篠宮にだけ弱くなってしまう…というのたまらんです!
勿論その逆もアリで、篠宮の為なら何処までだって強くなれたりもするんでしょうけどv
…これ以上強くなってどうするんだと言う噂もありますが…(笑)
そして、絵は泣く篠宮をましゃさんの予想通りに描きましたよ!!
表情が上手く行かなかったですが…とほ。
うう。何はともあれ、本当に甘い中篠ありがとうー!乙女上等だよ?(笑):黒須ねこ