あのヒトが好きなモノ。綺麗なモノクロの風景写真、シンプルでオシャレなインテリア小物スタイリッシュなインディーズデザイナーの服に、深夜の衛星放送のテニスの中継。


「ダメだ・・・、全然思いつかないや」

はあっと息を漏らして、カタログから目を離す。でも早く決めないと。
ちらっと見たカレンダーの日付けは、その時までもう数日しかないコトを暗に知らせている。
ホントはこんな通販なんかで決めたくないけど、でもこの学校は人工島に作られた全寮制で、自由な外出は日曜にしか許されていない。
そしてその日曜は大抵、大事な用事で塞がってしまっている。
そうソレは、忙しい部活の隙間を縫って俺に色んなコトをしてくれる、大切なあのヒトとの大切な時間。
あのヒトはイツだって、俺を喜ばせて楽しませてくれる。優しい笑顔で甘い声で、逞しい胸でしなやかな腕で。
ホントは俺なんかに相応しくないヒトで、身分不相応だってちゃんと判ってる。でも、でもどういう訳かこのヒトは俺を選んでくれて、そして毎日様々な刺激を与えてくれる。ソレは面白かったり嬉しかったり、ちくっと来たりじゅん、と来たり。
とにかくもう、こんな言葉じゃ言い切れないくらいに素敵なんだ。
だから俺は何か返したくて、そしたら偶然にもあのヒトの誕生日がもうすぐだって知って。なら俺もプレゼントを何か探そう、あのヒトが喜んでくれる様な良いモノを。
凄いね、って、ぱあっとした笑みを顔イッパイに浮かべてくれる様な、そんなモノを。でも、でも。

「俺ってホント、ダメだなあ・・・」

きっとあのヒトは、そんなのイラナイよって言うだろう。
僕は何もイラナイよ、こうやって居られるだけで何もイラナイ。そう言うに決まってる。
ソレは俺への純粋な愛情で優しさなんだって判ってるけど、でも同時に心の隅をぴりっと引っ張る小さなササクレでもある。
とびきりお洒落で何でも持ってるヒトだもの、今更俺が何を選んだって”イラナイ”んだと思う。でも、でも。
そしてとうとう前夜になったけど、結局プレゼントは決まらないまま。
でも俺は秘策を練った、周りから見たらきっと下らなくてヒネリも何もないんだろうと思うけど、今の俺にはコレでも精一杯なんだ。
時計を確認して、そおっと部屋のドアを開ける。
ゴメンなさい、篠宮さん。もし俺を見つけても、今だけは見逃して。後でどんな罰当番だって受けますから、今だけはどうか、どうか。
足音を忍ばせて、2年生の階に降りて行く。あのヒトの部屋は南側の奥から6番目。
そして息を顰めて、どうってコトない規格の、でも俺にとっては特別なそのドアの横に立って、腕時計をじいっと見つめる。
あと20秒、15秒・・・

「・・・啓太?」

そんな俺の耳に届いた、あの優しい声。
どうしたの、こんな時間に。大きなストライドを描いて近付く長い足、暗闇でも目立つ綺麗な髪。

「成瀬さん・・・」

何だよ、運が強いだけが俺の取り柄なのに。どうしてこんな肝心な時にダメなんだよ。
どうして成瀬さんに先に気付かれちゃうんだよ。悔しいやら何やらで、危なく涙が出そうだった。
そんな俺の頭を成瀬さんがそおっと撫でる。ホントにどうしたの?とにかく中に入ろうね。

「でもびっくりした、こんな時間に啓太に逢えるだなんて」

成瀬さん、どうして外に?僕はね、試験勉強をしてたら喉が渇いたから飲み物を買いに行ってたんだ。
屈託のナイ笑顔に、力が抜けた。
何だ、ホントに運がナイよ俺。そんな僅か5分足らずの隙をわざわざ狙っちゃったんだ。
そう思った時に、腕時計から小さなアラーム。その音に押されるみたいに、堪えてた涙がとうとうぽろっと落ちてしまった。

「啓太、一体何が」

「・・・・お誕生日、おめでとうございます」

「え?」

俺、イチバン最初に言いたかったんです。成瀬さんに、イチバン最初に”おめでとう”を言いたかったんです。
ホントは成瀬さんが好きそうなモノとか選んでプレゼントにしたかったんですけど、でも俺全然思いつかなくって。
だからせめて、気持ちだけでも伝えようって思って。日付けが変わったらすぐに言おう、こっそり行って脅かそうって考えて。
でも成瀬さんにバレちゃって、そしたら何か急に自分の考えがバカみたいに思えて。
言いながら俺、泣いてた。自分でもこんな泣き虫みっともないって思うんだけど、でも泣いてた。
好きなヒトひとり、ちゃんと大事に出来てない自分に腹が立つやら切ないやらで。
俺はこのヒトが与えてくれる優しさや愛情の、その数十分の一も返せてないんだって。そんな自己嫌悪に苛まれまくっていたら、

「凄い・・・・!!」

俯いた俺の頭の上から、掠れた声が振って来る。
そして何の遠慮もナシにイキナリ、俺は成瀬さんにがっちりと抱き締められた。
凄いよ啓太、ホントにスゴイっ!!

「な、成瀬さんっ!?」

「こんな幸せってある?僕が産まれた日に、僕のイチバン愛してるヒトがわざわざ祝福の言葉を述べに来てくれたんだよ!」

こんな夜中に足音を忍ばせて、こっそりとドアの前で待ち構えて。
でも俺に見つかっちゃったからって、涙まで零してくれて。
頬を真っ赤にして、少し上ずったみたいな声で息付く間も無く喋り倒す成瀬さん。
そして俺の濡れた頬に汗ばんだ額に、雨みたいにキスをくれる。
やっぱり啓太は最高だ、こんな素敵な誕生日、きっと2度とナイよっ。僕に取ってはどんなプレゼントよりも嬉しい、僕だけの宝物だっ。
コレはお世辞かも知れない、このヒトから溢れる無意識の優しさかも知れない。でも良い、良いんだ。
長身の成瀬さんの腕に抱き上げられ、ぼおっとした意識のままで考える。
だってホントに好きなんです。
自分でもどうしたら良いか判らないくらいに、こんなバカで陳腐なコトを本気で考えて実行しちゃうくらいに成瀬さん、アナタが好きなんです。

「啓太、ホントにありがとう・・・」

目を閉じて、ぎゅうっと身体にしがみついていた俺の耳に、普段と同じ穏やかな声が流れて来た。
そしてゆっくりと身体が下ろされて、改めて視線を合わせて言葉を掛けられる。
ホントに、本当に、ありがとう。ヒトコトずつ区切るみたいにしっかりと発音された言葉に続いて、ふわっとしたキス。
ソレは甘くて柔らかくて、まるでこのヒトそのものみたいな優しいタッチ。
そして俺は全てを委ねる、このヒトの思うが侭に、身体も心も。


あのヒトが好きなモノ。
綺麗なモノクロの風景写真、シンプルでオシャレなインテリア小物、スタイリッシュなインディーズデザイナーの服に、深夜の衛星放送のテニスの中継。
そして今年からはココに、俺のコトも加えて貰えますか?

大好きなアナタに、HAPPY BIRTHDAY。



『JUST   U』

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ハニー、ハニー、どうにもハニーです(笑)
ねこちゃんとメッセをしながら、正味1時間くらいで書きました。
なるっちの誕生日なんだからおヒトツ如何?と振られ、ならばやらねば!
と妙な気合いだけで仕上げました。
今でこそこんなにもハニーな私ですが、実を言うとゲームをする前&途中まではこの”ハニー”に鳥肌を立ててました。
でも実際にプレイしてクリアして、PS版に手を出す頃にはすっかりと骨抜き状態に(苦笑)
どれくらい骨抜きかと言うと、他のキャラ攻略時どうしてもなるっちのお誘いを断らなければならない時、
イツだって画面に向かって平謝りです。その光景は相当にアヤシイらしいです。
だけどソレくらいに好きなんです、成瀬さん。そして、お誕生日おめでとうvv(葉月ましゃ)

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メッセでの怒涛のタイムアタック(笑)
私は、ましゃさんから来る次ぎのメッセージをコーヒーすすりながらモエモエ応援しながら待ってるだけでした(←役立たず)
本当にあの短時間で仕上げてしまったのは、成瀬さんへの愛だとしか(笑)
ましゃさ〜んvお互いを想い合う優しさ溢れる、素敵な作品有り難うv
本当に、成瀬さんお誕生日おめでとう!!大好きですー!(黒須ねこ)