『IKA UKA』
「・・・そう言えばもうすぐ誕生日だな」
向かいで忙し無く書類を捲っている、薄い唇が零した何気ないヒトコトに思わず目を見開く。その様子に、怪訝な顔。
何だ、自分の誕生日なのに忘れたのか?いや、そうじゃナイ。
「良く・・・覚えてたな」
普段なら学生が大勢たむろしている、寮の食堂。だが終業式も終わり、今年もあと数日を残すだけになっている今では、人影は本当に疎らで少ない。
今もざっと見渡しても、知ってる顔は目の前のこの生徒会副会長と、あとほんの数人だけ。
覚えてたって、こんな判りやすい日、忘れられるか。
言いながら、手にしたペンで開いた分厚いシステム手帳の小さなカレンダーを叩く。
真っ白な紙にくっきりした数字しか載っていない、彼らしいシンプルで無機質なデザインのソレの一番下の段。
小さく付いている翌年翌月の最初の日が、俺の産まれた日。
「欲しいモノとかあるか?あるなら用意してやろう」
さっさと実家に逃げ帰ってしまった生徒会長の置き土産をばさばさと捌きながら、短い言葉。
欲しいモノ、そうだな、って。
「お前が?」
「・・・オカシイか」
”ああ、オカシイな”と、滑りそうになった口を慌てて戒める。
ソレに気付いたのだろうか、メガネの奥のややキツめな双瞳が不快そうにすうっと細められる。
その相変わらずの察しの良さに、思わず苦笑い。
悪い、失言だ。でも俺の思ったコトも、強ち間違いではナイだろう?散らかした書類を片付けながら、ちりっとしたヒトコト。
今更だけれども、この伶俐な恋人は人間としての情緒や感情に酷く欠けている面がある。
その彼が自分の誕生日を覚えていただけでも奇跡に近いと言うのに、まさかプレゼントのコトまで考えていたとは。
だから素直に驚きだった。
「別に欲しいモノなんてナイ、ソレに俺もこの歳だし」
「可愛気がナイな」
ふっと薄く笑い、手にしたペンをくるっと回す。ソレは滅多にナイ、彼の機嫌が良い時にだけ見られるクセ。
綺麗な指でペンを軽やかに遊ばせて、最後にぱきっとキャップを鳴らす。
俺が”珍しく”優しいコトを言っているというのに。そう、先程の様子を引き合いに出し”珍しく”にアクセントを置いて言う。
ならば願い事でも良いぞ?
何だって聞いてやろう。机の上に肘を付き、組んだ指に尖った頤を乗せてこちらを見るメガネの顔。本当か?ならば、
「先ずその煙草を止めろ」
今まさに封を切ろうとしていた煙草のパッケージのセロファンを指差し、厳しい目。
だが返って来たのは、
「無理だな」
短い声。そして当てつけみたいに一気にセロファンを剥がし、取り出した紙巻きを銜えて火を付ける。
「・・・言った側からソレか?」
サスガに普段は、こんな目立つトコロで煙草を吸ったりしてはいない。
しかし先程も言った通り今は年末で、普段なら時折様子を見に来たりする教師連中も休みに入ってしまっている。
そして既に寮内には数える程しか残っていない生徒の中で、未成年の喫煙の云々を彼に対して意見し注意する様な怖いもの知らず(いや、更に正確に言えば普段からもそんな命知らず)は、当然ながらいなかった。
だからナニも気にもせずに、こうやって大っぴらに紫煙を燻らせる。
そんなつまらんお願いなら却下だ、他は?
”他って・・・今、何でも聞いてやるって言ったクセに”
ニ度目の不満は胸で呟き、次を探す。では冷蔵庫のビールを処分しろ、ソレも無理だ。無断外泊と門限破り。どっちも届けは出してる。どっちも事後でな。七条とのいがみ合い、アレは向こうから仕掛けて来るんだ、俺はナニもしていない。ならば構わなければ良いだろ?
「だが躾の悪い犬には、折檻をしてやらなければ」
「・・・・・・・」
「だいたい篠宮」
短くなった煙草を灰皿にぎゅうっと押し付けながら、煙で少し枯れた声が名前を呼ぶ。
俺はお前の欲しいモノ、願い事を聞いている。なのに出るのは俺のコトばかり、もっと真面目に考えろ。
「それとも最早、俺以外のコトは考えられない頭になってしまったのか?」
だとしたら、ソレはソレで喜ばしい限りだがな。
「な、中嶋っ!」
自信満々な科白に、思わず椅子から立ち上がって声を荒げる。ソレをさらっと切り返す、冷ややかな顔。
何だ、違うのか?二本目の紙巻きに火を付けようとしていた顔がふっと不敵に揺れた。
だが何故か、銜えていた煙草を火を付けずに箱に戻し、その箱をそのままゴミ箱に放り投げる。
良いのか、開けたばかりだろう。止めろと言ったのはお前じゃナイか。ソレはそうだが。
「よし、では俺がプレゼントを決めてやろう」
楽しみにしていろ、最高のモノを選んで渡してやるからな。
「・・・怖いな」
三度目の失言は、声に出てしまった。でも意外にも目の前の顔は、変わらない。
ああ、怖いだろう。そしてメガネを押し上げながら、鋭く尖った綺麗な笑みを漏らす。
ソレは良く研がれた極薄の刃みたいに冷たく、でも目を奪われる程に優美な表情。
じっくり時間を掛けて選んでやる、そしてその品物が決まる迄、さっきのお前のつまらない”お願い”の幾つかを聞いていてやろう。
「仮祝いだ」
”ああ、なる程・・・”
ようやく、吸わずに捨てた紙巻きの箱の理由が判った。
ソレはヒドク回りくどくて判りにくい、でも彼らしいアクション。だから思わず、笑いが漏れる。
全く、気難しいと言うか何と言うか。でもこんな風に気を使われてると言うコトに、悪い気はしない。
「ならば明日、出掛けないか?」
明日だと?ああ、お前に任せておかしなモノを選ばれては堪らないから、一緒に見に行こう。
「・・・俺のセンスを疑う気か?」
問いには意味深な笑みで答える。その裏側にある、思いがけなかった優しさへの感謝を見破られない様に、ふっと短く。
「期待しているぞ」
程々に、な。
END
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新年明けたと同時におめでとうですね、篠宮さん。
もうちょっと気の利いたお祝いをしたかったんですけど、こんなショボいハナシでゴメンなさい(苦笑)
何か悪甘いカンジで、胸がヤケそうです。差詰め、安いケーキかな?
ともかく、ハッピーバースデー。企画、頑張りたいですvv(葉月ましゃ)
お誕生日おめでとうございますv篠宮さんvv
企画第一弾は、ましゃさんの篠宮バースデイSSです〜vv
中嶋の回りくどい優しさが大好きです(笑)なんのかんの言って篠宮にメロメロだな〜・・とvv
そして、篠宮のお願い事。中嶋の事ばかりで(悦)
本当にこんなに甘くて素敵なSSどうもですー!
しかし、誕生日プレゼント・・・一緒に行って選ばないと、
ホントとんでもないもの貰っちゃうかもだ(大人のオモチャ系統とかさ・・ガタガタ)
(黒須ねこ)
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