Present For You


「……おい、何時まであーだこーだ悩んでるつもりだ」
「あのなあ、獄寺だって世話になってんだから、真剣に選べよ」
「俺はもう、決まってんだよ」
「え、マジで!?」
 百貨店と呼ぶには小規模な、とはいえ並盛市では一番大きなショッピングセンターを、獄寺と山本はもうかれこれ三時間程、あっちへウロウロ、こっちへウロウロ、ひたすら彷徨い続けている。
 最上階のペットショップから地下の食料品売り場まで、ジュエリーショップにファンシーコーナー、CDショップ、画材屋、本屋、エトセトラ──上へ下へと、どれだけ行き来した事か。
 そうして山本が悩み、探し続けているのは、たった一つの誕生日プレゼント。
 それがまだ、見つからない。
「ねえ、また来た♪」
「彼女にプレゼントかな、やっぱり」
「あんなに悩んじゃって、可愛いよねえ」
「あーん、お姉さんがアドバイスしてあげたーい」
 獄寺と山本が売り場に訪れる度に店員達がコソコソと噂する声も、商品の陳列棚を真剣に見つめる山本の耳には届いていないようだ。売り場の床にしゃがみ込んで、桜色の帽子を被ったトナカイだかタヌキだかのヌイグルミの抱き心地を確めている。
 てか、意外だな……?
 そんな山本の様子に、獄寺はふと首を傾げた。
「山本、てめえ、そんなキャラだったか?」
「何が?」
「いや、てめえは……プレゼントなんか、何だって良いのな?その人の事を想って、何かしたいって気持ちが一番嬉しいと思うのなー!!……とかいうタイプだと思ったからよ」
「てか、何だ、その喋り方?」
「……無自覚デスカ」
 獄寺が思わず肩を竦めると、山本は怪訝そうに眉を顰めた。そして顰めた眉はそのままに、唇の端を僅かに歪めて、苦笑った。
「ん、そう思う」
「は?」
「例えば、ツナとか獄寺がプレゼントくれるとしたら、誰だって嬉しいと思うのな?俺だったらスゲー嬉しい。獄寺がくれるもんなら、何だって嬉しい」
「……っ……そ、そそそ、そうかよ」
「でも、俺だからさ」
「???」
「プレゼントやるの、俺だから……それだけで喜んでくれるとは限らねえだろ?だから、ちょっとでも喜んで貰えそうなもんを──」
 ごっつん!!
 思わず、短い黒髪の後頭部をグーで殴り飛ばしていた。山本の顔がヌイグルミに埋もれて、見当違いも甚だしい台詞が中断される。
「獄寺、イキナリなに──」
「ドアホっ!!」
 憤慨した様子で見上げて来る山本の額を人差し指でぐっと押さえ付け、動けなくなった山本の驚いたような瞳を、真上から睨み付けてやる。
「てめえの自己軽視はイチイチ面倒臭えんだよっ」
「じこけーし?」
「………… (はぁ) ……」
 精一杯の威嚇を込めたつもりの視線を、きょとんと気の抜けた瞬きで跳ね返されて、獄寺は諦めたような溜息を吐いた。息を吐き出した後の緩んだ表情のまま、山本の腕の中からヌイグルミを取り出し、同じようなのが並んだ陳列棚に適当に放り込む。
 そして空っぽになった山本の腕を取って、力まかせに持ち上げた。
「何だよ、獄寺」
「これ、デカイし、結構高いだろ?もっと違うもんにしろ」
「でも──」
「あー、安心しろ……あのな、十代目じゃなくても、俺じゃなくても……お前にプレゼント貰えりゃ、誰だって嬉しいんだよ」
「そんなん、解らなくねえ?」
「いや、だって……」
 俺だったら、スゲー嬉しい。
 さっき山本が自分に言ってくれたみたいには、続ける事が出来なくて。
「その……なんだ、一般論的には、てゆーか……」
 獄寺はモゴモゴと口篭った。
 こんな時、素直になれない自分を厭わしく思う。
 山本は何時でも、俺が欲しいと思った言葉を、時には俺が欲しいんだと気付くよりも早く、素直に伝えてくれるのに。俺はそれが酷く嬉しくて、同じ嬉しさを山本にも与えてやりたいと思うのに。
 ああ、むしろ、だからなのか。
 俺が素直になってみても、その言葉が山本にとって嬉しいものとは限らない。
 それは、山本の自己軽視とよく似てる。
 ただ、決定的に違うのは。
「なあ……獄寺は、俺からプレゼント貰うだけで嬉しいって思ってくれるか?」
「……っ!!」
 俺には、それを素直な言葉で簡単に、自信に変えてくれるヤツがいるって事で。
「……俺だって」
「ん?」
「……嬉しいに決まってる」
 だから、自信を持って、素直にもなれる。
 こんな言葉一つで山本の言葉に報えるのか、なんて、そんな自信まではなかったけれど。
「そっか……じゃあ、信じる」
 だけど。
 山本が嬉しそうに笑ったから。
「おう、信じろ」
 てめえも自分に自信くらい持てよ?
 掌で叩いた山本の背中の感触から、自分の為の自信を貰ったような気がした。


   *****


「よし、んじゃ、行くか」
「おお!……てか、そういえば獄寺は何にしたんだ?プレゼント?」
「ああ……アイツの目の前で、俺等の濃厚なキスシーン見せてやる」
「そんなんで喜ぶか?」
「……ちょっとくらい慌てろっての……あー、ウソウソ、俺のはもう家に直接送ってある。マイナスイオン発生装置ってヤツ」

 ※獄寺の手作業により、外装には山本の顔写真がプリントされております。

「へえ……あ、そういや俺、先生からも預かってたんだった、プレゼント」
「あ?シャマルが?変なクスリじゃねえだろうな……って、あああ〜〜〜っ!?」
「どうかしたのか?」
「こ、これは……っ…… (発売と同時に初版1000枚が完売、増版が繰り返されながらも未だに入手困難な伝説のAV、その初回版!しかも100枚限定のプレミア、ノーカット無修正バージョン!!) ……アイツ、隠してやがったなぁぁぁっ!!」
「獄寺?何か凄いもんだったのか?」
「い、いや、ただのビデオだ……でも、なんていうか、くそう……」

 獄寺はぐっと目を閉じて唇を噛み締めながら、その包みを山本の鞄の中に押し戻した。ぶっちゃけこのまま着服したい、けど、義理と大恩故にそれは出来ない。
 獄寺の葛藤を見透かしたシャマルのニヤニヤ笑いが目に浮かんだ。
 アイツ絶対、自分の分はちゃっかり確保してやがんだ……でも俺には、少なくともタダじゃ見せねえだろうし……うわ、スゲエムカツク。
 ムカムカムカ。
 山本の鞄の口をぐっと握り締めたままピクピクと頬を引き攣らせる獄寺を、山本が怪訝そうに覗き込んで来た。

「ビデオ、獄寺も見たいヤツだったとか?」
「……まあな」
「じゃあ、今から家に行くんだし、皆で一緒に見たら良いんじゃね?」
「……っ!!」
「な?」
「たまには頭良い事言うじゃねえか!野球バカ!!」
「うわっ!?獄寺!?」

 よーし!行くぞ!それ行こう!やれ行こう!今すぐ行こう!!
 急に勢い良く歩き出した獄寺に腕を引かれた山本は、買ったばかりのプレゼントを落しそうになって、それを慌ててぎゅっと抱き締めた。上手く腕の中に留まった包みに、頬を寄せて微笑う。

「喜んでくれっかな?」

 綺麗なラッピングの中身は。
 リボンを解いてからのお楽しみ。

 Fin

 2008.12.26 Happy Birthday For Ms.Kurosu
 雪童翁






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こんなに素敵なプレゼントをいただけて、本当に私は幸せモノです!
こちらは『妄想電波』の雪童翁様が私の誕生日にと贈って下さった小説です。
凄い事に獄山の二人が私宛てにプレゼントを選んでくれてるという設定なんです!!
も…もう、感動しました……!!だって二人が私の為にですよ!目の前でキスしてくれるんですよ!?(私の中で確定事項としてます)流石獄寺、良く判ってる!!
しかもお宝なレアなアレを…このAVの内容凄いんですよ、うん、ね、雪童さんっ!!
そこかしこに溢れる萌えが散りばめられてて、感無量です。

もう、一杯煩いメールをしてしまったんでここでは少し抑えておきますが、本当にこんなにも温かいプレゼントをしてくださって、どうもありがとうございました!!
とても幸せな誕生日になりました〜vv