ソレはまだ、太陽がこんなにも高くなる前の、何気ない日常のヒトコマ。寮の玄関前の、花壇の片隅。ナニも植えられなくて久しいそのスペースを、簡単に掘 り返して畦をつくる。そしてソコに指先で丹念にヒトツずつ穴を開け、黒い粒をぱらぱらと落とす。ソレは朝顔の種。以前にひょんなコトから手に入ったモノ なのだが、咲いた花があまりに綺麗な青だったので、ソレから毎年種を取っては、大事に咲かせ続けている。コドモの頃は知らなかったが、大きくなってから 調べてみると、コレは『肥後朝顔』という、ヒドく珍しい品種だと言うコトを知った。こんな花を、あのコは一体どうやって手に入れたのだろう。確かにとて も頭の良い、そして知恵の働くコではあったけれども。丹念に土を被せ、水を掛けながらそんなコトを考える。
この朝顔には思い出があった。ソレはまだ自分が幼かった頃、まだ広島の実家で家族揃って暮らしていた頃。一夏だけの友達だった、都会生まれのコが別れ際 に俺にくれたモノだった。とても仲の良いコだった、なのにヒドくつまらないコトでケンカをしてしまい、そしてお互いに謝るきっかけを失って、そのままに なっていた。そんなある朝、小さな手に重そうに鉢を持ち、あのコは来た。
『この前はゴメン、これ、弟にお見舞い』
ソレだけ言って、鉢を押し付けるみたいに俺へと渡し、そして朝日の中に走って消えてしまった。今思えば、病人の見舞いに鉢植えなんて、縁起でもナイ。で
も咲いていた花の余りの美しさに俺は驚き、そして両親の元へと慌てて見せに行った。両親もそんなあのコの心遣いをありがたく汲んでくれて、鉢を弟の部屋 に飾るコトを許してくれた。そして日々弱って枯れる切り花と違い、毎日毎朝、チカラ強い青い花を咲かせ続けた朝顔は、弟の心を気持ちを励まし続けた。
『・・・キレイだったね、朝顔』
『ああ、来年も咲かそうな』
『うん』
兄さん、あの人にお礼言ってね。ああ、判ってる。僕、この朝顔のお陰でスゴく元気出たんだから。ああ。
でもその約束は、未だ果たせていない。あの時、鉢をくれた足でそのまま、あのコは東京へと帰ってしまっていた。そして気付く、俺はあのコの名前しか知ら なかったと言うコトに。勿論、アレコレ捜しはした。あのコが夏中いた、親戚の人のトコロにも、聞きに行った。でも。
『悪いね紘司くん、言うなって口止めされててね』
あのコはきっと、怒ってるんだ。せっかく謝りに来てくれたのに、ナニも言ってあげられなかった俺のコトを怒っているんだ。だからナニも教えてくれないん だ。
胸が痛かった。
ソレから俺は、この朝顔をずっと育て続けている。いつかあのコがまた広島に来た時、この朝顔を見て俺を思い出してくれるように。そしたら今度こそ言お う、あの時は悪かった、俺も意固地になってたんだ。朝顔、嬉しかった。弟もとても喜んだ。今だってほら、大事に育てている。だからまた、あの時の様に仲 良くしてもらえないか?君は俺の、大切な友達だったんだから。




---------------- そして、ある暑い朝。

清冽な朝日の中、たった一輪だけ綻んだ早咲きの『御狩宿(みかりのやど)』をじいっと見つめる、すらりとした長身。メガネの奥の、いつもは剃刀の様に鋭 い双瞳をふわっと緩めて、ヒドく大切なモノを見るかのごとくに見つめている。その様子に、奇妙な既視感を覚えた俺。そしてソレは次の瞬間に、決定的なモ ノとなる。
薄い瑠璃色の花びらを、キレイな指先がぴん、と弾く。その仕草は過去に、この花をくれた少年が良くやっていたモノと同じモノ。だから慌てて走り寄る。日 が昇り切らないうちに、朝顔がしおれて落ちてしまわないうちに。
「中嶋っ、お前まさかっ・・・」
果たして、彼は俺の思った通りの答えを返してくれた。

「あの時の広島も、暑かったな」






『黎明』







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メッセで盛り上がった、仔中&仔篠の『ぼくらのなつやすみ』ネタです。一発書きなんで、アラは見逃しっ。
最近キヨカジばっかで盛り上がってたので、たまにはと思い書いてみました。残暑見舞い(笑)
どうかな?(葉月)


ありがとうー!ましゃさんー!!
あの時メッセで話していた『ぼくらのなつやすみ』ネタvv
こうやって形にして貰えて本当に幸せだ〜〜!!
もう、最後のセリフを言った時の中嶋の表情を想像しては悶えてますよ(笑)
本当に可愛い二人をありがとうvv
凄く嬉しい残暑お見舞いだったです!!
ああ、本当に爽やかな気分だ…!!(黒須)