寒い日には、空気が冴え渡って星が良く見えるという。
冬の長い長い夜が造る黒い空は、傍らで静かに寝息を立てるこの人物にも少し似ている。
そんな空がふと見たくなって、起こすとどんな昔話の鬼よりも恐ろしい雲雀の眠りを妨げないようにそっとベッドを抜け出し、お互いの熱を分け合った後の一糸纏わぬその姿のままで、山本は窓際に移動する。
「んじゃー、この空が雲雀として…あの星の中の一つが俺だったりすんのかなー」
そして、あの星が草壁さんでーあの星はツナで獄寺でー…などと、先人が定めた星図など軽く無視を決め込んで、点在する星を追い己の星図を指で描く。
「うーん、やっぱ並盛を仕切ってる風紀委員長は大変だな」
と、神妙な顔で頷きながら、独り言にしては大きな声をうっかりこぼしている事に本人は気が付かない。
かさりと渇いた音を立て、先ほどまで規則正しい寝息を立てていた雲雀が、その声に引きずられそっと身を起こした。
「君…うるさいよ…それに寒いんだけど」
「うあっ!!雲雀…!?」
「…僕しか居ないでしょ?それとも何?君には僕以外にこういう事をする仲の奴が居るってわけ?」
不本意な時間に起こされた上に、目を覚ました恋人の姿を見て素っ頓狂な声を上げられたのでは、外気だけではなく雲雀のご機嫌もしんしんと冷え込んでしまうのは、ある意味自然の摂理だろう。
「あー、起こしちまってごめんな、雲雀。ちょっと空が見たくなったっつーか…」
「それは、僕の眠りを妨げてまで見ないといけないものなの?寒すぎて目が覚めたじゃない」
寒い寒いと雲雀は言うが、山本はただ窓際に移動しただけで窓は開け放っていない。空調は適温で効いていて、現に山本が衣服を身に纏う事を忘れ部屋の中をふらふらしても、風邪を引く心配を必要としない温度だ。
「早く…ここに来なよ」
そういいながら、先ほどまで山本の温もりがあった場所を雲雀がぽんぽんと叩く。
そんな雲雀の様子が、何だか無性に可愛くて、山本は思わず笑みが零れるのを止められなかった。
「ははっ!雲雀意外と寂しがりやなのなー!」
「君…あんまり僕を怒らせないほうがいいよ……」
あっけらかんとした顔と声で図らずも図星を指したことが、益々雲雀のご機嫌を斜めに傾けてしまった事に、山本は気付かない。
「僕が、この黒い空として……今日の空に君は居ないよ」
意地悪な光を湛えた雲雀の目が、山本の見開いた視線とかち合い細められる。
「えっ!?それ…ちょっとショック……」
星空を眺めながら甘い気分に浸っていた山本に、雲雀は先ほどまで自分が感じていた寒さを浴びせるかのように、山本が窓の外を眺めながら発していた言葉を否定する。
「いいよ、君にはわからなくても…癪だからね」
そう言いながら雲雀は間近まで来た山本の腕を取り、自分の傍らに引きずり込んだ。
「ちぇー、雲雀の意地悪……」
今日は、冷えた空気を抜きにしても星空が冴え渡る、新月。
月の居ない黒い空も、きっと寂しがって君を呼んだのかもしれないと、雲雀は、夏と違って若干色の抜けた山本の、乳白色をした首筋に顔を埋める。
雲雀はその欲しかった温もりに、山本は廻された腕の強さに安堵し、お互いもう一度深い眠りへと意識を沈めた。
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甘いヒバ山で。
バレンタインには間に合わなかったので、甘い心意気だけでも…!
相変わらず御礼にならない代物ですが、拍手お礼としてUPしていました。
武は月の光というかそういう柔らかさがありますよね!
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