横隔膜ヘルニア
Diaphragmatic hernia

 横隔膜とは胸腔と腹腔を境する筋肉の膜で、呼吸するのに大変重要な役割を果たしています。しゃっくりはこの横隔膜のけいれんによっておこります。

 横隔膜ヘルニア(DH)には先天性のものと外傷性のものと二通りありますが、ここでは外傷性横隔膜ヘルニアについて説明します。
 DHのほとんどは、外傷、特に交通事故の結果生じます。腹部への非穿孔性の衝撃を受けたときに声門が開いていると胸と腹の圧力差が大きくなり、その境である横隔膜を破裂させてしまいます。一般的には、胸壁と横隔膜の付着部で裂けてしまうことが多いのですが、衝撃を受けたときの体位や方向、内臓の位置などによって裂ける部位が変わります。
こうして破裂してしまった横隔膜の穴を通って、腹腔内の臓器が胸腔内に入り込んでしまった状態を横隔膜ヘルニアと言うのです。
 横隔膜破裂を起こした状態で何ヶ月も無症状ですごす場合もあり、破裂自体は緊急の処置は必要としませんが、ヘルニアを起こした内臓の量、位置、等によってはショック状態になることがあります。胸腔内に入り込む腹腔臓器には肝臓、胃、腸、脾臓などがあり、一番多いのは肝臓です。肝臓が根本を締め付けられて鬱血したり、胃や腸が絞扼されて、腸閉塞を起こしたり、脾臓が捻転を起こしたりすると様々な症状を示します。
 主な臨床症状は、消化器症状と呼吸器症状で、呼吸困難、運動不耐性、食欲不振、嘔吐、下痢、等を示します。
 (余談ですが、猫で、拾ってから10年間外に出したことも、怪我もしたことのない子が、ある日突然呼吸困難になったのを見たことがあります。飼い主さんは10年間少し息苦しそうにしたのを見たことがあっただけだそうです。)

 診断は、X線検査や、超音波検査を行います。
X線検査では本来はっきりと胸腔と腹腔の差が分かりますが、ヘルニアを起こしていると横隔膜の越えて腹腔臓器が肺や心臓に重なってうつるため肺野に白い影がみられたり腸管にガスがたまった像が見られたりします。しかし専門的にはヘルニアとそれ以外の状態を見分けるために造影が必要になることもあります。
胸腔に液体が貯留している場合、超音波検査が有効です。

 治療としては、ヘルニアを起こした臓器により肺が圧迫されて呼吸困難がある場合、マスク又は酸素室による酸素の投与を行います。
外科的な治療の時期は、受傷後24時間たってからの方が良いようです。しかし、胃がヘルニアを起こしている場合は安定してに麻酔がかけられるようになったらすぐに手術をすべきです。胃の内容物が急速に拡張した場合致死的な呼吸困難に陥るからです。
 手術は、速やかに麻酔の導入をおこない、気管チューブという管を気管に入れて、酸素をすわせながらおこないます。腹部の正中を胸骨の直下から切開し、腹部の臓器は腹腔内に戻し、破裂した部位を縫合します。胸腔内の邪魔者が取り除かれて、肺が再度ふくらむようになるとき肺水腫(肺の酸素が入る部屋が水浸し状態になること)にならないようじょじょに拡張させます。
 外科的に治療した外傷性DHの生存率は75%に上るそうです。

サスケちゃんのケース

 今回サスケちゃんはとても珍しい原因で、横隔膜ヘルニアになってしまいました。
原因:リョウマちゃんと遊んでいる最中に接触してしまった。
リョウマちゃんの方がゴロゴロと転がるような、一見サスケちゃんよりリョウマちゃんのダメージが大きそうなぶつかり方であったのに、結果的にはサスケちゃんの横隔膜が切れてしまった。
 ドライラフランスをたくさん食べた。
ドライフルーツは消化が悪く、胃の中でふやけてその体積を増加させた。その結果吐き気を催して腹圧をあげることになった。
治療:その晩PANさんの何時にないあわてようで、これは!と思った私が見たサスケちゃんは
吐き気が強く脱水気味でした。とりあえず輸液だけは出来たが、心音がやや弱いのを、ヘルニアのせいだと分からなかったのが悔やまれます。
次の日横隔膜ヘルニアの手術となったのを聞いたときは絶対に助かる、と確信していましたがとても心配でした。結果的には、手術は大成功!!
 後日レントゲン写真を見せてもらって驚きました。腹部臓器がほとんど胸腔内に入り込んで、ご丁寧にまだ胃袋の中にふやけたラフランスらしきものが見えたのです。肝臓も胃も腸の大部分も、ヘルニアを起こしていました。聞くところによると肝酵素の値もかなり高かったそうです。
しかしもっと驚いたのは、それだけヘルニアを起こしていても、肺はまだかなり空気を含んでいたことです。改めてイタグレの心肺機能の高さを確認しました。
予後:サスケちゃんは驚いたことに手術の次の日に退院していました。飼い主さんの面倒見がよいこと、サスケちゃんが病院では落ち着かず、かえって自宅の方が落ち着けると判断されたこと、また、当のサスケちゃんが次の日にはこともなげに食事をとって嘔吐しなかったこと、などを総合的に判断しての退院のようでした。
 数日後サスケちゃんの様子を見に行ったら、サスケちゃんはジャンプして歓迎してくれました。このときばかりはジャンプするサスケちゃんを抱き留めて、「はねちゃダメ」とたしなめました。

ホームへ  メディカルに戻る