シンドラーのリスト
1993年米。監督 スティーブン・スピルバーグ。主演 リーアム・ニーソン。
「1939年9月ドイツはポーランドを2ヶ月で制した。ユダヤ人には移動命令がくだり国内の1万人以上のユダヤ人がクラクフに運ばれた」「1941年3月20日全ユダヤ人はユダヤ人居住地域へ。クラクフに集められた彼らはウィスク川の南岸、壁に囲まれた0.24平方キロの狭い地域へ押し込まれた」ユダヤ人たちがワルシャワゲットーへ移動するとき、ポーランドの子どもたちは「出ていけユダヤ人」となじっています。住む家を追い出され、わずかばかりの持ち物だけのユダヤ人はさんざん。
主人公オスカー・シンドラーはドイツ人。トランク一つでこの国に渡り、一山当てようと野心を燃やしています。ドイツ軍人に近づきコネクションを作り、資金の方はユダヤ人を当てにして、ドイツほうろう容器工場を立ち上げます。
働いているのはポーランド人よりも賃金の安いユダヤ人。シンドラーは大金を手にします。
1943年3月14日ゲットー解体。ユダヤ人を強制収容所に移動させようとドイツ軍が乗り込んできます。追い立てられるユダヤ人。隠れる者。宝石を飲み込む者。殺される者。このあと、ワルシャワゲットーのユダヤ人たちによる蜂起があるのですが、映画は強制収容所に舞台を移してしまい、蜂起は描かれません。「聖週間」より少し前に映画は舞台を変えてしまいます。でも「聖週間」のイレナはあのあとどうしたんだろう? おそらくイレナはシンドラーとのコネがないのでリストアップされず、捕まって収容所で死んだものと想像できます。
しだいにドイツ軍のやることについていけなくなるシンドラー。たんに利用しているだけのはずだったユダヤ人をかばうようになっていきます。
ワルシャワゲットー内の生活ぶりが少し手ぬるいかも。映画自体には別に影響はありませんが。「我が闘争」で見たときの記録映像の方が悲惨。
ここでもユダヤ人の扱いがひどい。虫けらのよう。ドイツ人将校は気分次第でユダヤ人を殺しまくります。
シンドラーの「戦争は(人間の)最悪の部分を引き出す」という台詞が印象的。戦争ではなく平和時であれば、ユダヤ人を殺しまくる将校もそこそこの善人かも、と。
こういった系列の作品を見ていると、中にはユダヤ人に同情的なドイツ人も出てきます。たいがい、ユダヤ人を、というより、ユダヤ人の知人を助けようとするのです(この劇中ではワルシャワゲットー解体時のドイツの少年)。個人対個人は恨みもなくつきあえても、もっと大きな単位、人種対人種という細かいイメージをつかみづらくなってくる大きさになると、ダメなのかもしれません。「そこそこの善人」と自負する自分も、当時のドイツ人と同じ環境に置かれたら、ユダヤ人を排斥していたかも。そう考えると怖いです。
(★ユダヤ人を虐殺したのはドイツ人だけではなく、ポーランドの地元民たちによる虐殺事件もあったそうです。イヴェドヴァブ事件。1941年7月10日。1600人ものユダヤ人をポーランドの地元民が焼き殺す。近年、議論をよんでいるらしいです。ポーランド人は大国に踏みにじられた小国の悲劇、と被害者の顔だけではなく、さらに弱い立場の者を踏みつけにした加害者の顔も併せ持っているようです。なんかスケールの大きないじめの構図?)
ユダヤ人の運命は悲惨。600万人ものユダヤ人が虐殺されたそうです。でもどうしてユダヤ人はこんな目に?
「シンドラーのリスト」の劇中でふれているのですが、何も持たずに流れてきたユダヤ人が、6世紀の間にこの土地で繁栄している、と言っています。ヨーロッパ人のやっかみから?
いくらヒトラーひとりがユダヤ人を撲滅しようと考えても、こんな大規模な大虐殺は行えないはず。多くの支持者と協力者がいたからこそ実現可能。
スピルバーグは商業的採算を無視して作り上げたそうです。アカデミー賞8部門獲得。当時自分は全く興味がなくて未見でした。今回、ヨーロッパ戦線に興味がでてようやく見たのですが、当時のこととかを知る上で大変重宝しました。スピルバーグは凄い監督なのかも。
それとスピルバーグはユダヤ系と聞いたことがあるけど本当? もしそうだとしたらかなり気合いを入れてこの映画を作ったことでしょう。



鷲の指輪
1992年ポーランド。監督 アンジェイ・ワイダ。主演 ラファウ・クルリコフスキ。
「1944年8月1日ドイツ占領下のワルシャワ、ロンドンの亡命政府の指揮下、レジスタンス組織は祖国解放を目指して一斉に武力蜂起した。ワルシャワ蜂起である。しかし、当時ヴィスク川対岸まで侵攻していたソ連軍は支援に動かず、ワルシャワは63日間で20万人の死者を出し、街は灰と化した。そしてポーランドは西側寄りの反ソ連派と、共産主義を支持する親ソ連派の政治的主導権争いの中で将来を模索していた」
ワルシャワ蜂起のさい、蜂起軍(若い! 子どもやせいぜい20代前半。女も)の小隊長として参加したヤン。結果は重傷を負い、命からがら逃げまどう。助けてくれたのは恋人のヴィシカ。彼女は「笑わないで」と大切にしている王冠をかぶった鷲(ポーランド王国の紋章)の指輪をヤンにくれる。その直後ヴィシカはドイツ軍に連れ去られ陵辱を受け、ヤンとは離ればなれに。
ヤンはケガが治ると地下組織の活動を再開する。元の同士を訪ね、意志を確認する。
○ソ連と戦うか。
○何もしないか。
○赤の仮面をかぶるか。
人々の見解も、組織自体も空中分解を始めていて、しだいにヤンは孤立していく。
ラスト、苦悩が深まるヤン。ヴィシカに再会を果たす。ヴィシカに指輪を渡すと、ヴィシカは一瞥をくれただけで、指輪を窓から投げ捨てる。。。
ワルシャワゲットーのユダヤ人蜂起から1年後、ポーランド人自身がドイツ軍に蜂起する。映画は敗走するポーランド軍の描写から始まります。
ドイツ軍がいなくなったと思ったら、次はソ連に制圧される。刃向かう者は今度はシベリア行き。ポーランドの弱小国故の悲劇。いくつかの映画を見て思ったことは、ポーランド人自身でさえてんでバラバラで分裂しています。これでは余計侵略者が入る隙ができます。ましてや国盗り合戦の戦争のさなか、よその国が見逃すはずがありません。
映像はきれいです。2回、話がわからず見ましたが、それでも分からない。何でコショール中尉は姿を消したのか。何らかの取り引きがあったのか。映画では説明してません。ひょっとしたらポーランド人には当たり前のことだったのかも。自分にはまったくわかりませんが。
そんなこともあり、自分のなかではこの映画、あまり評価は高くありません。
「灰とダイヤモンド」のマチェックとアンジェイがカラー化されてそのまま出てきます。カウンターでウォッカに火をつけ、なくなった同士の名前を挙げていくシーン。




灰とダイヤモンド
1958年ポーランド。監督 アンジェイ・ワイダ。主演 ズビニエフ・チブルスキー。
1945年5月8日。ドイツが無条件降伏。その日、マチェックはアンジェイと共に共産党地区委員長シチュカの車を待ち伏せ、暗殺する。
しかしそれは人違いで、再びマチェックは暗殺を実行しようとする。
映画はマチェックを縦糸に、複数の人物が入り乱れ、当時のポーランドの状況を浮き彫りにします。ポーランドは混沌そのもの。民衆もひとくくりに出来ない複雑さ。ポーランドという国家が成り立っているのが不思議なくらい、置かれている状況も、人々もてんでバラバラ。
とにかく非常に描写が細かい。普通の映画の演出量を1とすると2〜3倍くらいの量。同じ時間のフィルムと較べたら、質量が圧倒的に違います。高密度。神懸かり的な映画。一級の職人の作った工芸品のよう。どのシーンを切り取ろうともすべてが完璧すぎます。おそらく古今東西の映画の中で、十指に入るのでは?
ワルシャワ蜂起の頃は民衆からの支持があったマチェックたち。ドイツは消え、ソ連が、共産主義が入ってきて、それに対抗しようとするが、いまはただの人殺しにしかすぎない。シチュカは殺すに値する人物か?見ている自分にはそうには見えない。シチュカは方向性が違うだけで、ポーランドの未来を模索している。マチェックにも同じように見えているはず。だから彼は悩み、1度はこの仕事を下りようとする。居場所のない主人公。ともにポーランドの未来のために戦った仲間は死に絶え、理想も終戦のさなか見失いつつある。
どのシーンも見せ場、見所なのですが、自分が一番好きなのは雨の中、マチェックとホテルのウエイトレスをしているクリスティナとのデート。
一つの上着に二人でくるまり雨の中をかける。
壊れかけた教会にたどりつく。
墓碑を読むクリスティナ。
「松明のごと なれの身より 火花飛び散るとき なれ知らずや 我が身をこがしつつ 自由の身となれるを もてる物は失われるべき定めにあるを 残るはただ 灰と嵐の深淵の落ち行く混迷のみなるを」
このあとマチェックが諳んじてみせる。
「永遠の勝利の あかつきに灰の底深く さんたんたるダイヤモンドの残らんことを」
「私たちは何?」
「君はダイヤモンドさ」
教会の中、さかさ釣りのキリスト像。
「あのね、変えてみたいものがある。生き方を変えたい。うまく言えないけど」(テロリストから足を洗おうと考え始めている)
「いいわ、だいたいわかる」
「本当かい」
「そんなに難しい?」
「ねぇ、今までは何も考えなかった。自然に何とかうまくいった。夢中できた。わかる?」
「ええ」
「今から普通に生きたい。勉強も、高校は出た、工業大学に入れるかも。君は?」
「悲しい話はいけないわ」
「悲しい? じゃよすよ。いま分かったことが昨日わかっていたら」
本当にその通りで、そのあとクリスティナのヒールのかかとが壊れて、祭壇でなおしていると男に怒鳴られる。死者に敬意を払え、と。祭壇のわきに白いシーツで覆われていたのは、昼間、マチェックがシチュカと間違えて殺した2人の工員の死体。
仕事に戻るクリスティナを送り、ホテルの前で。
「いつ発つの?」
「たぶん明日だが。全部中止するかもわからん」
「全部って?」
「いろんなこと」(シチュカ暗殺。それとアンジェイとともに拠点を移して再び地下活動)
「本当?」
「たぶん」
マチェック、クリスティナを強く抱きしめる。キスをする。マチェックの感情が画面から突き刺さってきます。見ているこちらも胸を突かれます。こんなに感情がほとばしりでた抱擁シーンが他にあるか? 「好きだ」「嫌いだ」とやっているラブ・ロマンスでは無理です。重みが全く違います。
灰の下に、ダイヤモンドはあるのか? そもそも、マチェックたち、ポーランド人たちは何一つ勝利していない。支配者のドイツ軍は自滅、その次に乗り込んできたソ連の支配下に納められ、西側には見放される。ひたすら混迷の中にある。
その混迷の中でもがきまくるマチェックの運命は悲しすぎます。

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