ディア・ハンター
1978年米。監督 マイケル・チミノ。主演 ロバート・デ・ニーロ。
ペンシルヴァニア州クレアトンという町のロシア系移民の若者たち。ベトナム戦争に出征する前、戦場、復員してから、と3部構成で彼らの姿を描いています。マイケル・チミノの手腕は素晴らしく、力強く、なおかつ繊細な演出。アカデミー作品賞を含む5部門獲得したのも頷けます。
このころのロバート・デ・ニーロはよかった。今のように安売りはせず、「レイジング・ブル」などに代表されるように1作ごとが渾身の出来だった。ロシアンルーレットの吠えながら引き金を引くところ、真に迫っています。他のクリストファー・ウォーケン、メリル・ストリープもいい仕事をしています。
「おれに万一の事があったら必ずここへつれて帰ってくれ、約束してくれないか」とニック(クリストファー・ウォーケン)。マイケル(ロバート・デ・ニーロ)がそれを実行しようとする姿に男の友情を感じ感動。遠い地で起きている戦争、こんな片田舎にすむ若者たちをも飲み込んでゆきます。だからといって反戦メッセージを高々と盛り込んだ映画ではなく、映画は彼らの日常をきめ細かく映していくだけです。
「君の瞳に恋してる」を口ずさみながら馬鹿騒ぎしていた彼らが、文字通り泥沼のような戦場に。戻ってきても何かしらを皆失っている。
簡単に戦争で幸福は壊れてしまうが、たとえそれでも生き続ける、人間の生活のはかなさと力強さを描いた傑作。

自分はマイケル・チミノ監督の「天国の門」(1981年)が好きです。批評家に酷評を受け、興行収入も惨憺たる物であったらしいのですが、一見の価値があると思います。いまこそ見直されてもいいような気がします。

タクシードライバー
1976年米。監督 マーティン・スコセッシ。主演 ロバート・デ・ニーロ。
ベトナムから復員してきた主人公が不眠症にかかり、夜勤のタクシードライバーとなり、昼はポルノ映画と妄想にふける毎日。かといって引きこもりというわけではなく、女の子をナンパしてみたりと、積極的に人に関わっていこうとする性格です。彼が乗せた客、運転手の彼自身を通してニューヨーク、ひいてはアメリカの暗部が見えてくる、そんな映画です。
デ・ニーロが普通っぽく見えて普通ではない、普通ではないけどまともに見える、そんな境界線の人物を見事に演じています。ちょっと神経質っぽい、場の空気を読めない、しょぼい男。思い通りにならないとキレるし、自分のことは棚に上げて人に偉そうに説教をかましたり、批評したりしている。限りなく彼が言うところの「ゴミ」のような人間と彼自身が大差ない。観客から見るとトラビス自身ですらクズ人間の一人でしかない。しかし! スローモーションとモノローグ、見ているこっちは次第にトラヴィスとシンクロしていきます。
見ているうちに自分自身もトラビスと同じ、劇中の台詞の「負け犬」側の人間だと気がつきます。トラビスが売春宿に乗り込むころには息づかいまでトラビスと同化してしまいます。
ニューヨークの治安の悪さと、黒人が羽振りがよくなってきた世相が伝わってきます。きっと白人と黒人の関係は自分たちにははかりしれない根の深い物なのでしょう。「ゴッドファーザー」でもイタリア系が「ニガー」と黒人を呼び、奴らにだけ麻薬を売ればいい、とか、最近ハーレムの黒人どもが羽振りがいい、といった台詞が出てきます。

中学生の時に初めて見たとき、トラビスの小型拳銃の仕掛けにあこがれました。
10番街の殺人
1971年英。監督 リチャード・フライシャー。主演 リチャード・アテンボロー。
あの「ガンジー」(アカデミー賞8部門獲得)の名監督リチャード・アッテンボローが殺人鬼に扮します。実話だそうです。ネクロフィリアらしく、主人公クリスティは死体に興奮するようで、戦時中から若い女を中心に殺人を犯します。手口もずさんだし、死体の隠し場所も自宅だったりして、あまり頭のいい殺人者ではありません。話は彼のところへ下宿するエバンス夫妻の事件を中心に進みます。貧乏な夫妻にクリスティが堕胎を請け負おうと持ちかけ、婦人を殺し、夫に罪をかぶせて夫はえん罪なのに処刑されてしまいます。
夫役が名優ジョン・ハートです。彼が出ている映画では「天国の門」がオススメです。
音楽がオープニングにちらっと流れるだけ、あとは効果音も雰囲気を盛り上げる音楽もなく、硬質なタッチのまま生真面目に映画は作られています。
これを見ると、第2次世界大戦が終わったころは英国には文盲がいたこと、英国人は法律を尊ぶこと、何かとお茶を飲むことが分かります。

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