ワイルドバンチ
1969年米。監督 サム・ペキンパー。出演 ウィリアム・ホールデン アーネスト・ボーグナイン ロバート・ライアン エドモント・オブライエン ウォーレン・オーツ。
サム・ペキンパーの全作品中、というより西部劇史上渾然と輝く最高傑作。
パイク率いる強盗団ワイルドバンチ。ろくでなし、ダメ人間の集まり、頭の中は酒と女のことばかり。仲違いが絶えず、組織としても一枚岩とは言えません。
老境にさしかかった主人公たち。映画は容赦なく主人公たちの老け具合を映していきます。
これで最後の仕事と駅舎を襲うが、罠にはめられ賞金稼ぎの待ち伏せにあい、命からがら生き延びたのはパイク、ダッチ、ゴーチ兄弟(ライル、テクター)、メキシコ人の若者エンジェルの5人。賞金稼ぎの中に保釈を条件に鉄道公安主任ハリガンに飼われたソーントン(パイクの旧友)がいて、ソーントンをリーダーにして賞金稼ぎたちが追跡してきます。
駅舎襲撃が失敗に終わった夜、パイクとダッチの会話。
「最後の仕事のはずだった、もう年だしな、大きく稼いで足を洗いたい」とパイク。
「そしてどうする?」
「・・・・」パイク返事が出来ない。
「何かあるか?」
胸にしみるシーン。何かあるか? きっとパイクのようなならず者には何もない、パイクでなくても、きっとこの映画を見ている自分も、何かあるようなふりをして実は何もない。大多数の人間も、生まれて大きくなって、ただ年老いていくだけで、人生の先には何もない。
2人の会話は続く。
「前にも戦った。2度か3度、ハリガンとな。鉄道の公安主任だ。いつも勝った、だがやつはあきらめることを知らないのさ、ダッチ」
「意地さ(台詞では「プライド」と言っている)」
「執念だな、やられても目が覚めないのだ」
「我々は? 目が覚めたか、今日の失敗で」
パイクは息を詰め、
「もう負けないぞ」
パイクらはメキシコに逃れ、エンジェルの故郷に立ち寄ると村はマパッチ将軍に荒らされたあと。父は殺され、エンジェルの恋人テレサは貧困の生活に見切りをつけ、マパッチ将軍について村を出ていってしまっていた。エンジェルには復讐をする気なら同行させない、と復讐しないことを誓わせ、しばし休息のあとパイクたちは馬の調達のためマパッチのいる町へ。
メキシコ兵ばかりの町。マパッチ将軍は自動車で登場。時は1913年、第1次世界大戦間近。飛行機も飛んでいる。否応なしに古い時代の終焉、パイクら盗賊団たちも時代に取り残されつつある、消滅する種類の人間であることが浮かび上がります。
マパッチの愛人になったテレサとエンジェルの再会。テレサは「ここに来られて本望よ、楽しいわ」と言う。マパッチ将軍相手にいちゃつくテレサ。怒り心頭のエンジェルが弾丸を撃ち込む。騒然となるが、このことがきっかけでマパッチ将軍から米国軍の武器強奪を頼まれます。1万ドルの報酬。パイクたちは今度こそ引退とばかりに列車強盗を引き受けます。仇であるマパッチ将軍に武器を渡す仕事に気乗りしないエンジェル。報酬はなし、代わりに小銃を1箱、エンジェルの仲間たちにながすことを条件に作戦に参加します。
しかし小銃横流しの件がテレサの母親によって密告され、列車強盗を終えたあと、武器と報酬の引き替えの時に小銃のことで難癖をつけられ、私怨のあるマパッチにエンジェルは捕らえられてしまう。
「救いだそう」ダッチ。
「救い出せるか、相手は200人だぞ」テクター。
「ムリだ」パイク。
大金を得たパイク、ダッチ、ゴーチ兄弟らはソーントンの追撃をさけマパッチの町に体を休めに行くと、そこでリンチにあっているエンジェルを目の当たりにする。エンジェルを助けようとマパッチ将軍と交渉するが断られてしまいます。
「金は払う」
「起こしてやれ、これでも払うか」
ぼろぼろになったエンジェル。
「もう長くはない」
「千ドル出そう」
「いらんよ、この男は売らない」
引き下がるパイクたち。
売春宿で女を買い、事がすんだあとパイクがゴーチ兄弟に告げる。
「行こう」
「いいとも」
これを見て魂が震えないわけがない。
続く「死の行進」と呼ばれるマパッチ将軍の所まで赴く4人が並んで歩くシーン。自分は全身鳥肌が立ちっぱなしです。
大金を手にし引退するのみの、もう決して若くはない男たち。ここで戦っても何の得はない、目をつぶってやり過ごすこともできる。しかし、どんなろくでなしだろうが、「男」として絶対譲ってはならない一線、プライド、最後のこれだけは守らねばならない一線、そのためにマパッチ率いるメキシコ兵200人にたった4人で殴り込みをかける。
くどくどしい議論も、大げさな演出もなし。かわされる言葉は「行こう」「いいとも」のみ。感動や、ドラマの盛り上がりを押しつけることなく、静かに描いていますが、見ている自分にはわかります。伝わってきます。
この映画を見ると、男はやらねばならないときがあるのだ、と言うことを痛烈に認識させられます。
やるしかない、男ならやるしかない。例え不利であろうが、損得勘定からはずれていようが、やらねばならない。
映画史上もっとも壮絶でもっとも美しいクライマックスの銃撃シーン(使用された27万発の弾丸はメキシコ革命で使われた弾丸よりも多かったのは有名な話)。そこに至るまでのプロセス。男の心情。人間の、男の、人生。緻密な描写。
この映画は映画というジャンルを突き抜け、ついには神の領域にまで到達した数少ない作品のひとつです。

ゲッタウェイ
1972年米。監督 サム・ペキンパー。主演 スティーブ・マックイーン。
服役中のマックイーン扮するドク・マッコイは仮出獄の申請を棄却され、委員会に顔の利く実力者ベニオンに妻を通じて、銀行強盗を請け負うことを条件に保釈してくれ、と頼み込む。
ベニオンの力添えでドクは出獄。ベニオンの推薦で2人の助手と、妻の合わせて4人で銀行を襲撃。50万ドルをせしめる。
助手の一人ルディが裏切り、仲間を殺害、ドクも片づけようとするがドクに返り討ちにあい負傷。ドクはベニオンに金を渡しに行くと、意外な事実が。銀行発表の被害額が75万ドル、実際にあったのは50万ドル。その銀行の持ち主はベニオンの兄で25万ドルの横領を隠滅するために仕組んだ銀行強盗。そしてベニオンとドクの妻は裏で通じあっていて、ドクをはめる計画であった。
この映画は面白いです。スティーブ・マックイーンも妻役のアリ・マッグローもいいですが、頭一つリードしているのはルディ役のアル・レッティエリです。「ゴッドファーザー」のソロッツオの時と勝るとも劣らないすばらしさ。彼が連れまわす医者のハロルドと妻もいい感じ。妻を寝取られたあげく縊死してしまう情けない男と、夫を見限ってルディに早々ついていしまう女。とてもファンキー。アリ・マッグローより華がある。主役二人をルディたちが食ってしまっているのではないかと自分は思います。

後年(1994年)リメイクされましたが、こちらは凡作。
戦争のはらわた
1975年米。監督 サム・ペキンパー。主演 ジェームズ・コバーン。
1943年、ロシア戦線のドイツ軍。名誉欲にとりつかれた貴族出身のストランスキー大尉と、現場主義のスタイナー軍曹との対立を主軸に、軍隊とは、男とは、を描き出した傑作戦争映画。ここでもペキンパーのスローモーションは冴えわたり、ダイナミックな演出。戦車は鋼鉄の怪物といった感じで、すごい迫力。それと敵の背後から忍び寄りのどをナイフで切ったりと、戦争もしょせん個人レベルの殺人行為の積み重ねなんだと知らしめている。
戦場の場面としては古今の映画の中でもベスト10に入るのではないかというくらいの出来。きっと一番良くできた戦場シーンを持つ映画は「プライベート・ライアン」ではないかと思われます。他に思いつくのは「フルメタルジャケット」「炎628」、最近では「スターリングラード」でしょうか。
敗色濃厚、退廃的な軍隊。見ていてスカッとする類の映画ではありませんが、ジェームズ・コバーンはとても男らしくかっこいいです。それと敵役のストランスキー大尉も単純に善悪では割り切れない、「男」として描かれています。

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