フルメタル・ジャケット
1987年米。監督 スタンリー・キューブリック。主演 マシュー・モディーン。
ベトナム戦争映画の最高傑作。金字塔。
新兵の過酷な教育訓練、それと戦場、市街戦の二部構成。1本で2本分楽しめます。それが弱点と指摘する声もありますが、自分はそれこそがこの映画の長所であると思います。
最初は教官の喋りが圧巻。次から次へと新兵を罵倒(戸田奈津子の字幕が気に入らず字幕を差し替え。キューブリックの意向らしいが日本語分かるのか?と当時の雑誌に載っていた)。リズミカルで心地よくなってくるくらいの名人芸。頭を刈られ、あだ名を付けられ、市民から殺戮者へと新兵は変貌。ほほえみデブが一番の注目株だったのですが、自殺してしまったのが残念。自分は戦場で大活躍するほほえみデブを見てみたかったです。
ベトナムのシーンが今までの映画と違うのは、ジャングルでないこと。市街戦です。CGを使ってないところが貴重。
荒廃した町を兵士たちが身をかがめて移動。映画館ではカチャカチャ、カサカサ、と音が突き刺さってくるような感じがしました。兵士たちの身のこなしもよく訓練されていて、現実の戦場にいるよう。
自分はこの映画を3回ほど映画館で見ています。当時の自分はそうとう感動したみたいです。いま見てもこの映画は古びていません。
構成も映像もとにかくシャープ。簡潔。登場人物たちとの距離の置き方がキューブリックらしくない、とファンからは不評もあるらしいですが、自分はこの作品がキューブリックの中では一番好きです。
ラスト、ようやく戦争映画らしくなり、仲間を狙撃された主人公たちは狙撃兵を討ち取るべく狙撃兵の潜むビルに潜入。その狙撃兵の正体は。。。
最初見たときは衝撃的でした。かなりブッラク。
音楽も良かったです。特に最後は黒い画面に白抜きの文字が切り替わっていく、これ以上にないシンプルなスタッフ・ロール。被さる曲はローリング・ストーンズの「黒くぬれ!」。とてもかっこいいエンディングです。

現金に体を張れ
1956年米。監督 スタンリー・キューブリック。主演 スターリング・ヘイドン。
競馬場の売上金をねらったジョニー率いる5人。それぞれに事情をかかえ、強盗をする。緻密な計画。しかし仲間の一人が妻に計画を漏らしてしまう。
面白いです。
最後まで映画に釘付けです。
タランティーノがよくやる時間軸の解体が、早くもこの映画では多用されています。
シャープな映像、斬新な展開、無駄をはぶいたシンプルな描写、それでいてスタイリッシュ。キューブリックのセンス、技術を堪能できます。わずかではありますが、銃撃戦もすごいです。キューブリックは偉大です。
それぞれのキャラクターも立っています。描き分けもツボをおさえてあります。すべての映画の手本になるような、高水準な映画。
それにしても、「フルメタル・ジャケット」は1968年を舞台にしていて、「現金に手を張れ」の方はおそらく50年代半ばという設定。たった12年くらいの間で、ずいぶんとアメリカの風俗やら人々の雰囲気が違うモノです。この50年代から60年代の終わりに、世間は劇的に変化したのかも。
それとも自分は気がつかないだけで、30年くらいたてみたら、現在2004年と12年前、1992年ではまったく違う世界なのかもしれません。

突撃
1957年米。監督 スタンリー・キューブリック。主演 カーク・ダグラス。
これも才気をそこかしこに感じずにはいられない作品。戦場の移動撮影も素晴らしく、細々した兵士の動作もすごいリアル。将軍らと兵士の対比も、画面のすみずみに至るまでの描写力が、物語の展開、語り口がすべてにおいて無駄のない映画。
1916年第一次世界大戦中のフランス。アント丘のドイツとの攻防戦。名誉欲にとりつかれた将軍の無理な注文により、突撃命令が下る。多大な被害をだす軍隊。しかも丘の奪取は失敗に終わる。その責任は兵士の志気の低下が原因と、各部隊から一人ずつ計3人の兵士がくじ引きやら、上官との個人的ないざこざを原因に選ばれ、まともな裁判をうけないまま、敵前逃亡の汚名をきせられ処刑される。
とても救いようのない話。誰一人ヒーローがでてこない。一応、カーク・ダグラスが主人公だけど、彼自身部下を救えず無力、命令とあればろくな上官と知ってはいても従順に職務をこなします。普通の映画なら彼がくび覚悟で反抗したり、死刑にされる兵士の一人が決死の脱出したり、ていうかそもそも兵士たちが死刑にならずにどこかで人道的なことがおきて助かったりするのですが、兵士らはあっさりと処刑されてしまいます。処刑、というより簡単に処理されてしまいます。そしてそのことを劇中の人物たちは誰も憤ったり、疑問を持ったりしません(殺される兵士たちも、殺す側の同僚たちも、もちろん将校たちも)。
見ているこっちは怒っていいのやら笑っていいのやら、相変わらず登場人物たちにすりよらない、距離を置いたキューブリックらしい冷徹な視点で映画は貫かれています。
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