院長紹介研究論文


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院長紹介

松 谷  行 晃
   (まつたに ゆきてる)

  【所属 学会・認定資格】
  国家資格 柔道整復師・鍼師・灸師
  日本柔道整復師会公認 機能訓練指導員
  広島県トレーナー協会 認定トレーナー
  運動器系超音波技師
  講道館柔道2段

  社団法人 日本柔道整復師会 会員
  日本柔道整復接骨医学会 会員
  広島県接骨師会学術部 部員
  ジャパン・アスレチック・トレナーズ協会 会員
  広島県トレナー協会 会員
  広島県ポダィアトリー研究会 会員
  広島県足病医学研究会常務理事
  日本超音波骨軟組織学会 会員
  全日本柔道連盟・指導員・特別会員 


【 経歴 】

1983

1984

1985


1986


1987

1988

2000


2003


2005


2006

2007

2008





前羽整骨院 (大阪) 研修


中村接骨院 (大阪) 研修

明治東洋医学院卒業  国家資格 はり師・きゅう師 取得
高野千石理学博士(元島根大学理学部教授)師事
在来研究員として広島臨床研究所にて臨床実習


指頭感覚に関する研究論文
竹邊白杖・博敏先生とともに共著
「古典小児鍼法」を執筆出版



南京中医学院留学(鍼灸師第一号)・中医理論・鍼法を学ぶ


中国医学広島研究所 松谷東洋鍼灸院を開設


鍼灸臨床よろず17年  医道の日本社 
 第59巻・第6号・通巻675号 (平成12年6月号)



広島医療体育学院専門学校・柔道整復科卒業
同年 国家資格・柔道整復師取得
同年 まつたに鍼灸整骨院開設

「アーチテーピングの有用性」
  第14回日本柔道整復接骨医学会研究論文発表


日本柔道整復師会公認 機能訓練指導員認定



超音波観察装置を用いた距舟関節の観察
               RCSPNCSP、各種足底板の比較-
研究論文

日本超音波骨軟組織学会公認 運動器系超音波技師取得           
超音波画像による病期分類―オスグッド病に ついて-研究論文




【モットー】
 毎日でも、安心して受けられる良質な医療、中医学の特徴でもある未病を防ぎ、1)「同病異治」を 行うことを目標に患者さんとともにホリステックな医療を歩みたい

1)同じ病名であっても、ひとりひとりの治療が異なる意味(人それぞれ、季節,天候,年齢,食生活,社会的環境,精神状態、人生哲学,などに違いがあり、それらを総合して診察診断を行い治療 計画  をたてる)

【座右の銘】

 
天地不書の書を読む

【好きな言葉】


 
感 謝


研究論文

指頭感覚に関する研究(1)
その測定法の試みと2,3の性質

Studies on Finger-tip Sensible1icy,the Method
of Measuring and the Severa1 Characteristics
東洋厚生科学研究所
松谷行晃    
高野千石(指導)

Ⅰ 緒言
手頭感覚は初診の基木をなすもので、その練磨と向上とは東洋医学の治療を大きく作用させている一つの原因であることは明らかである。しかしながらそれを定量化して測定した試みは殆んど見当らないようである。著者は、極めて簡単な方法を用いて、指頭感覚閾値の測定を試み、これを用いて、1)個人差の問題、2)指頭感覚に及ぼす環境の影響、3)練習効果、4)疲労現象など、指頭感覚に及ぼす、いろいろな要素との関係を得たので報告する。
 西洋医学では、客観的データーによって、診断治療を行うのに対し、東洋医学では、経験や勘にたよって診察、診断治療を行う場合が多い。これは、東洋医学(鍼灸)がいまだに、法的にも医療類似行為と見傲され、西洋医学におけるような、正規の教育機関も乏しく、その学問的研究においても、大いに立ちおくれており、いわゆる科学性に乏しい等の点が数え上げられる。しかしながら、東洋医学が、このような手技や感覚にたよっている理由は、一つは東洋医学の独得な理論体系が、2000年以上の昔の感覚に頼ってのみ発見された公理や法則にもとづいて、その治病理論が構成されたためであろう。
 “手当て”の言葉が、よくこれをあらわしているように、東洋医学の治療および初診においては、手指(指頭)が果たす役割は非常に大きい、論者は指頭感覚を定量化して、その特性をあきらかにすることによって、診断結集の向上や効率の良い治療技術の向上を、行えないだろうかと考え今回の研究に着手した。
 指頭感覚については、Weber(1831)、Fechner(1860)、Sterence(1961)らによって感覚の法則が発表され、最近の鍼灸においては、医道の日本500号「圧診点による診断と治療及び指頭感覚」という項を設けて、最近1O年間における、指頭感覚に関する研究業績が集録・紹介されている。これらの文献をみると、研究の動向は、1)指頭感覚の安定性を臨床との関係において捉えようとしたものが圧倒的に多く、次に2)感覚生理学の立場に立って、指頭感覚の性質を吟味し、ひいては臨床上の効果と結びつけようとしたものが、主として医者の立場からなされている。また3)小数ではあるが、臨床向上の目的から、何とかして指頭感覚を練磨して、よりよい反応点(ツボ)の正確な検出を期待している研究もある。
 1)に属するものとしては、森秀太郎氏、浜田浩氏、前田昌司氏らの研究が目立ち、その主張は、指頭感覚の本質を経験と考え、意識して臨床を積み重ねる事によって、よりよい初診が可能である事を示している。2)については、石毛忠雄氏。高森道雄氏、らの研究があり、指頭感覚の本質を機能と考え、感覚生理学的に考える事によって、よりよい初診が可能である事を示している。また3)については谷岡賢徳氏、丸山寅治氏、らの研究があり、指頭感覚の本質を客観化と考え、臨床において研究を試みる事によって、よりよい初診が可能である事を示している。
 このような指頭感覚の、研究の重要性が指摘されているにもかかわらず、実験的に指頭感覚の特性や性質を検討した研究がなされていない。著者は、実験的事実にもとづいて、指頭感覚の練磨向上と、その特性について、研究した。


Ⅱ 実験方法
 指頭感覚の測定方法は、大学ノート6号(枚数100枚、1枚の紙の大きさ179×252㎝、重さ75g/㎡、JIS規格(ノ…290))を使い、それと同質の紙片を1×1㎝の方形に切ったものを、ほぼノートの紙面の中央付近に位置するように入れ、次第に紙片がノートの紙の枚数が大きくなるような方向で、深さを変化させながら、被験者に提示し、被験者が指頭でノートの第1枚目(第1頁)の表面をかるく、円形あるいは直線的に紙面を往復するような形で連動させると、被験者は紙片のある位置で、ある違和感を感知し、内部の紙片の存在を認知することができる。このようにして被験者が紙片を認知できなくなる限界の枚数を測定して、被験者の指頭感覚の認知限界閾値を測定する。
 このような限界閾値は、バラツキがあるので、できるだけ被験者の精神状態を、平静に保つようにし、またのちに、実験結果の項目のところで述べるように、温度や湿度などの環境の影響もあるので、特に練習効果の測定などにおいては、できるだけ一定した測定条件が整えられるような工夫を行った。
 このような方法で測定した紙片の認識限界閾値は、指頭部分の紙片に接触する面積や、指頭を動かす速度などに大きな影響をうけるので、特にこの測定実験においては、紙面に対する指頭圧を、できるだけ一定(約90gから150g)に保ち、また、指頭の運動速度は、円形の場合でも直線往復運動の場合でも、ほぼ10㎝/sec程度に保った。


Ⅲ 実験結果
 1)指頭感覚と湿度との関係
 認識限界閾値の経口変化と湿度の関係について、次のような実験結果が得られた。図1,2によると、湿度が高くなる時期が2回あり1回目では、全般的に認識限界閾値が低いのに比べ、2回目には、認識限界閾値が高い値を示す事か認められた。
 湿度と認識限界閾値との関係は、おそらく湿気が紙面に吸着されて、微妙な紙面の状態に影響するであろうことが考えられ、これと同時に被験者の指頭感覚にも何等かの影響を与え、これらが総合的に作用して認識限界閾値を支配したように思われる。この実験では測定を1日毎に計10日間に亘って行っているので、後にのべる練習効果の影響は、測定の後期では考慮する必要がある。
 

2)指頭感覚と練習効果の関係
 経日の指頭感覚の認識限界閾値と練習効果の関係について実験した結果、図3,4,5が得られた。第3,4図は、連日計7日で、第5図は、連日計10日測定したもので、X軸に回数を、Y軸に枚数をとって示したものである。また、測定方法としては、目隠しをして、測定時間を午後6時頃に定め、できるだけ疲労の影響が入らぬように、ゆっくり測定した。
 以上、練習の効果がどのように、指頭感覚に影響するかを調べた結果は、第3,4,5図に示したように、第3回頃から練習効果があらわれ初め、5回目あたりで最大に達し、のち多くの例で、かえって閾値が減少する。そして図から明らかなように、指頭運動の形式は、タテ、ヨコ、エン、で多少差はあるが全般的に見れば、どの場合でもほぼ、類似した傾向があらわれた。
 

3)被験者の疲労と指頭感覚の関係
 被験者の疲労と指頭感覚の関係について、図6,7,8、の結果が得られた。
 この測定方法は、目隠しをして、図6,7,8、は計5回各1回ずつ5分間休憩を与えながら繰り返し測定し、指頭の認識限界閾値を求めた。
 以上、図6,7,8、の各場合について、疲労の影響をみると、自覚的には、4回目あたりから疲労を自覚し初め、その時期から指頭感覚閾値は低下する。何れの実験でも、初めから3回目あたりまでは、閾値が向上しているのは、Ⅲ一2)に示した練習効果のためのものと思われる。

 4)指頭の運動形式の影響
図1、2,3,4,5,6,7,8のデータから弁別閾値と指頭運動をみると、タテ(Vert.)、ヨコ(hori.)、マル(circ.)でかなりのちがいがででいる。いくらかの例外があるが、タテが最もよく、マル(円形運動)が最も弁別しにくい。


Ⅳ 実験結果の考察
 以上われわれは、つみ重ねた紙の間に、それと同質の小紙片(1㎝平方角)をはさんで、牛頭を用いて、紙の上面をなせるという方法を用いて、指頭感覚のいろいろな性質を検討したが、結論を得るまでには例数が不足であるが、このような簡単な方法でも、かなりよく指頭感覚の度合いを検出できた。私達のとったこのような方法は、実際に臨床で患者の皮膚を触診するのとよく似た感じを与え、特に紙質をいろいろに変えて練習を行うことによって、指頭感覚を訓練することもできる。今までに得られたデータを総合すると、1)測定された指頭感覚にはかなりの個人差があり、2)練習によって向上し、3)疲労するとかえって感覚閾値が低下する。
 温度や湿度、採光など環境要素もかなり影響するが、とくに測定者の精神統一が大きく影響するようである。このような事実から、よい触診を行うためには、1)検者の精神が安定し、充分指頭に精神力を集中することが望ましく、2)できるだけ検者は疲労のないことが望ましい、3)また練習効果があるので、最初からいきなり触診を行うのでなく数回練習的な触診を行ったのち、本格的な触診を行うが、または別に触覚練習板のようなものを用いて練習効果を高めておくことが望ましい。終りに臨み、始終この研究を指導していただいた東洋科学研究所長高野千石博士、及び広島臨床研究所長竹辺博敏氏に厚く謝意を表する。


参考文献
1)医道の日本、第500号(l986)584
出典
東洋厚生科学研究所紀要
Vol.41(1988)




第14回日本柔道整復接骨医学会研究論文発表(05,12,3~4)

 柔道整復術の学の構築が叫ばれて止まない昨今、柔道整復師の生命線とも思われる学の構築機関であります、日本柔道整復接骨医学会の学術大会が、東京蒲田にあります産業プラザで2005.12.3~4日に開催されました。
 光栄にも、「アーチテーピングの有用性」と言う課題で学術発表をして参りました。これまでの経緯を簡単に説明致しますと、広島県接骨師会で4題の研究論文が出され、内1題が広島県代表として中国ブロック(中国5県の社団法人の柔道整復師の先生達の学術大会)に選出され、その内1題が日本柔道整復接骨医学会の学術大会発表に選出されます。
 今回選ばれました研究論文は、広島県ポダイアトリー研究会の諸先生(共同研究)をはじめ多くの広島県柔道接骨師会の諸先生方のご指導、まつたに鍼灸整骨院のスタッフや友人の整形外科医、保健大学の先生、等数え切れない方々のご協力に支えられたものでした。数人の先生との雑談の中から、学の構築の必要性を感じ、基礎研究の分野から積み上げることが出来ないだろうかと言う観点から、研究が出発しました。どれほどの基礎研究になりましたものか解りませんが、後身の少しでもお役に立てればと考えております。

                     
                          
 
松谷 行晃


中級超音波セミナー・レポート   

                                          広島支部 松谷行晃

学んだこと

超音波診断では、物質の質度が1)高いものから白く、2)少ないものへと黒く描出される。これらを理解するひとつの方法として、光をイメージすれば、理解しやすい。例えば1)では、光は前方に反射され後方への光の伝播は難しい、2)では、光は透過吸収される。

血液や脂肪などが混在する生体のような、物質の質度が違うものを描出する場合、良くアーチファクトと呼ばれる虚像(実際にない画像)を観察することがある。アーチファクトには、サイドローブと呼ばれる放射状に出された音波と、直線の音波が交差する点などで、音波が衝突しあうことによって高エコー像が描出されるものや、多重反射と呼ばれる板状のものを描出したときに現れる、幾重もの平行な線上の高エコー像などがある。

超音波診断をより明確に行うためには、人体の解剖学的側面の熟知、受傷機転における機械的損傷の推測、超音波の特徴を理解する必要がある。

第1回の超音波セミナーを受講した感想

戦後整形外科学の進歩は、誰もが認めるところである。これらの要因は、MRICTなどの検査機器の進歩や科学的手法によるところが大きい。今日、柔道整復学の主流は、昔ながらの徒手による、所謂五官に頼った経験的な方法である。これからの医療の枠組みの中で、柔道整復師が役割を確保するためには、科学に基づいた診察診断治療を確立する必要がある。それらを行うひとつの方法として、超音波診断は有効である。



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心の自然治癒能カをあげるために

まつたに鍼灸整骨院・院長 松 谷 行 晃



1.「こころのツボ」

 私は鍼灸臨床をはじめて17年になります。今までに延べ約5万例の症例を扱ってきました。
 東洋医学においては自然治癒能力を上げることを第一義としています。自然治癒能力とは、自分の持っている治ろうとする力、生体反応のことであるとお考えください。
 元広島市民病院外科部長であった先生が、よく胸部のレントゲン写真を見ながら「自律神経の乱れが生じている時には、脊椎上に必ず反応する部位(ツボ)がある」とおしゃられていました。
西洋医学的には、自律神経失調症のひとつとして脊椎過敏症と記載があり、その反応部位とレントゲン写真の異状として現れてくる部位とが、相関していると言う事でした。
 また先生は、脊髄液の流れと自律神経の関係に着目されており、「脊髄神経を覆う膜の内側にある脊髄液の流れが悪くなると自律神経に影響を与えるのではないだろうかと言う仮説に立って、この点に灸を施してみたところ、多くの症状に改善がみられる」と言う事でした。
 私どもではこれらを、追試研究していくうちに、意識の興奮(こころの動揺)とも関係している傾向が多く認められることから、それ以降、その反応点を「心のツボ」と呼んでいます。
 

2.鍼灸院の現場から

 人の体が不具合になる原因は必ずしも科学的に説明できるものばかりではありません。ましてや「心のツボ」に灸を据えればハイ完治などということはあり得ません。けれども劇的な回復を見せる患者さんたちがいることもまた事実です。
 私はこうした人たちに興味を持ち、いろいろと語り合う中で、あることに気づきました。 これからそのことについてお話ししたいと思います。
 

【1】 こころとからだ

症例1 40代女性、不定愁訴
 不定愁訴とは、字の如く訴えが定まらずあそこが痛い、ここが痛いと全般的に特定できない症状と考えてください。
 この患者さんは、実は1回の施術だけで来院しなくなった患者さんです。
 わたしの経験上、1回だけで治るものとは到底思えない症状なので、どうしているのだろうかと心配していたところ、心配をよそに、かなり日数がたってから、ひょっこりとやって来ました。
 そして、彼女の口から「おかげさまでよくなりました。」と言うのです。
 私は驚いて、彼女の背中を調べました。すると、以前にあったはずの、「心のツボ」の反応点がなくなっているではありませんか、確かに症状と共に改善されているのです。
 わたしは、不思議に思い「ほんとうに治っていますよ。でもどうしてでしょうね。私はたったl回治療しただけなのに…」 
 そのとき彼女はこう言いました。「先生に診ていただいたとき、『あなたは元気ですよ』と言われたので、そのことを、自分に毎日言い聞かせるようにしていたんです。そうしたらだんだんよくなったんですよ、これは先生のおかげでしょう」 
 私はこのことがきっかけで、意識が人のからだに影響するのではないかと思い始めたのです。
 そこで、もし意識がからだに影響するなら、どのような言葉かけを、すればよいかということについて考えました。
 

【2】こころが安定するひとつの考え方

症例2 全身火傷のお婆さんの話
 この患者さんは、若い頃親のかわりに建物疎開に出かけて広島で被爆した人です。
 命からがら帰ってきた彼女はその全身火傷ゆえに、親にさえ我が子と気づいてもらえない程の火傷をおっていました。さらにそのことを理由に決まっていた縁談も破談になってしまったそうです。
 普通に考えればたいへん不幸な半生ですから、少しは世をすねたところもあるだろうと先入観をもって彼女を見ておりましたが、なぜか彼女には少しもそういったところがありません。とても素直で明るいお婆さんなのです。
 私は矢礼を承知で尋ねました。「お婆ちやんは、たいへんな人生を送ってきたのに、どうしてそんなに素直で明るいままでおれたんかね?」
 彼女は「隣の家にねえ、悪い息子に手を焼いとる人がおられて、かわいそうに思い、それで、あなたも苦労じやねえ、かわいそうじやねえって言うとね、『ああ、私は前世で悪いことをしたんかねえ』と言われたですよ。」 「そのとき目がさめましてね、今までは私が不幸せなのはOOのせい、あの人のせい、言うてたのが、『もしかしたら、わたしも前世で悪いことをしたのかもしれん』と、今おかれている原因が、自分のほうに向いたですよ、そうしたら、世の中がありがたいですよ」
 「ありがたい」この言葉は、別のお婆さんも口にしていたことを思い出しました。 
 このお婆さんの夫は少し弱っていて、よくおもらしをしますが、それを後始末するのはいつもお婆さんなのです。
 ある時、老人会に夫婦で出席していた時のことです。人前で、夫がおもらしをしてしまいました。
 そのとき彼女は、にっこりと笑って、みんなに「ごめんね」と謝り、不平不満を少しも見せずに、「これも命があることよねえ。ありがたいねえ」と言いながら後始末をしたそうです。
 お年寄りの口からよく「ありがたい」「もったいない」「おかげさまで」と言う言葉が出ます。
 思いますのに、人間の生きる意味のひとつとして、「このことを、いかに深く感覚として感じる事ができるか」と言うために生きているように思えます。
 私の鍼灸院に来院される患者さんの予後を観察してみますと、この言葉が多く出る人ほど治りが早い傾向があり、こころが安定する考え方のように思えます。
 そこで、患者さんにはつとめてこうしたことに関する言薬をかけていくようにしてみました。

【3】こころの安定と症状の変化 

 症例3 頭痛・吐き気・不眠を訴える痴呆のお婆さんの話
 この人は初め、「ボケが進んで『ものを盗られた』言うちゃあ、近所中を歩く」ということで息子さんが、困り果てて連れて来られました。
 いわゆる痴呆の症状です。その他にも、頭痛・吐き気・不眠を訴えられていましたので、「心のツボ」を調べると反応があり、そこを治療点として中心に施術したところ、痴呆以外の症状は軽減したのですが、肝心の痴呆の方はいっこうに治りません。そこでお婆さんの言葉によく耳を傾ける事にしました。 
 お婆さんの話。「うちの息子はほんとにつまらんで(出来が悪い)ねえ。娘は3人おって3人ともええんよ。それにひきかえ息子はねえ、バツ1の子持ちと結婚しよってその人にも死なれたんよ、その後、子供に財産みなやってうちへ戻ってきよった。こんなが(息子が)ほんまに(本当に)つまらん。」
 こんな話しを、繰り返し話しているお婆さんに、私はある日言ってみました。
 「お婆ちやん、毎日ここへ連れてきてくれるのは誰ね?」「OO(息子のこと)よ。」「ほうね、息子さんが連れてきてくれるんじやね。ええねえ。」言い方は日によって変わりますが同じ様なことをお婆さんに繰り返し語りかけてみました。
 そのような日が何日か過ぎて、またお婆さんが息子さんのことを話し始めたときのことです。 
 「お婆ちやん、4人のお子さんを育てたんじやね。みんなお婆ちやんに育ててもろうたんじやね。」という私の言葉に、お婆さんは、 「ほうよ。でもおってくれる(面倒見てくれる)のは息子だけじやあ」と答えました。 そしてこの日初めてお婆さんの口から「息子のおかげ」という言葉が聞かれたのです。
 その日から、お婆さんの話の中に息子さんへの感謝の言葉が、日に日に増えていきました。そして、それとともに痴呆の症状も次第に軽くなっていったのです。
 お年寄りの痴呆の原因のひとつとして、無意織の「死への恐怖」から逃れようとする心のしくみがあるのではないだろうか、と思う事があります。
 真に感謝の心を持てるようになった人はその恐怖から少しでも解放されるので、痴呆の症状が軽くなるのかもしれません。
 

【4】こころからからだへ

 症例4 二十代女牲、不安症
 この女性は、不眠と腹痛を訴えてこられました。
 背中の「心のツボ」にも反応があります。 そこで施術しながら話をしてみました。 「いつから眠れなくなったんね?」
「半年前から」
「そのとき何かあったんかね、思い出すことはない?」
「つき合ってる人がいるんですが、占い師に、『あなたは結婚しても、2~3年で別れる』って言われたんです。それ以来その人と会うと緊張して眠れなくなって、近頃はもうずうっと…。」
「一番眠れるのはお酒を飲んだときかなあ。350mL缶ビール、3本あけてやっと眠れる。」
 一回目の治療時には、信頼関係が構築されていないので、努めて必要以上の事は、聞きませんでした。
 私は基本的に相手のことをいろいろ間きだそうとはしません。人には話したくなるとき(時機)というものがあり、そのときが来れば話すからです。
 その後、1回の治療で、「だいぶん眠れるようになった」と言って再び来院して来ました。
 二回目の治療中の事です。彼女の口から自然に少しずつ、仕事のこと、家族のこと、つき合っている男性のことなどを話し始めました。
 本当につらかったのでしょう、彼女の話は、堰を切ったように続きました。涙を流して話す彼女の話しを聞きながら、私は一つ質問しました。
 「どうして占い師の言葉に迷ってしまったんかねえ?」
 「両親の夫婦仲が悪くて、うちには対話がなかったんです。こんなふうになりたくないと思ってました。とくに父がいやで…。小さい頃から『男なんてこんなもんだ』と考えてて、男性が信じられませんでした。手を握られてもムシズがはしるっていうか…。それに私性格悪いし。冷淡っていうのかなあーお父さん入院しても『ふーん』って感じ。」
 聞き役に徹していこうと思っていた私はこれを聞いて思わず言ってしまいました。
 「性格悪いって言うけどね、そういうのはホントはないんじやないかな。対話のない家で、がんばって、両親の事を思うあまり、あんたずーっとええ子でおらんといけんかったんじやろう。自分を殺して人に合わすのに慣れすぎて、人と接触するのが下手なだけではないかな」
 「人は生まれたときはそりや、透明なきれいな珠みたいなもんで、悪い言うても汚れがついとるくらいのことで、その汚れを「癖」と言ううんよね。これは汚れなんだからふけばきれいになるもんなんよ。あんたはその汚れに気づいたんだから、気づいた人はきっと拭こうとするものなんだから、今からなんぼうでも変われるよ。最初は、あの人ええなーと思う人のマネでええから始めたら」
 「いろんな事に迷った時、何を信じて良いか迷ったとき、自分が何をしなければならないかは、本当は自分自身の心に書いてあるんだけど、汚れがついとると見えんけん、素直になったらそれはとれるからね、きっと見えるよ。」
 「今回、あなたは病気になってよかったんじやない。病気になった『おかげ』でいろいろ考えて、40年先の人生を明るくすることができるんよね。」
 それを聞き終わると彼女は言いました。
「じやあ、お父さんにどう言うたらいい?」「まず行ってね、『元気?』って一言いうて帰ってくりやあええ。それで何かあったら、『ありがとう』も言って、やさしさも種を植えんと芽は出ないけえね。」
 鍼灸院を出てから彼女はお父さんの病院に行ったそうです。それからしばらくして、お父さんの退院後、父娘の関係が変化して、会話ができるようにもなりました。
 その後、彼女の不眠はかなり解消しましたが、それでも:一度だけ症状が悪化したことがあります。まだ彼氏との緊張関係が続いているのかと思って尋ねてみると、彼とは会っていないとのこと。
 何か心当たりはありますかと言うと、お母さんと結婚について話をして以来よくない状態であることがわかりました。
 「その時のことをちょっと話してくれる。お母さんとどんな話をしたんかね。」
 「お母さんにとって結婚って何なのかって間いた。」
「お母さんはなんて言った?」
「結婚は『忍耐よ』って一言」
 確かによく言われる言葉ではあるのですが、不用意に使うとまずい言葉でもあります。というのも、これは場面によっては子どもの存在が否定されるものだからです。
 私は言いました。「まあ、それはね、お母さんの愚痴よーね。そう思って聞きんさい」
現在彼女は不眠の症状もなく、彼氏と会って極度に緊張することもなくなっています。 患者さん本人の体によい意識をもってもらおうと思っても、家族のありようによっては、悪い方へひっぱられてしまうこともあるという症例でもありました。

3.おわりに

 こころにトラブルが起きるとそれはいつか体をもむしぱんでいったり、その逆であったりする例もあります。また、体のトラブルは、心のトラブルによって増幅されるもののようです。鍼灸院でたくさんの人に出会って私はそう考えるに至りました。
 傷ついた体・病気にむしばまれた体がいつか治るように、心にも自然治癒ということがあるようです。その力はどうすることによって得られるのか、私は、素直になって、いのちの存在を見つめることで、自分に起こりうる総ての出来事や、自分と関わりのある人々に感謝する気持ちによって得られるものだと思います。
 その事に気づくきっかけのひとつとして、先祖から脈々と受け継がれてきた「命のバトン」を今自分が手にしていることへの感謝が、大切であり、ひいては、まわりのものすべてに対して心を開かせるのではないでしょうか、 開かれた心は素直で強く、生きていく上で出会う様々な困難を、自然に切り抜けていく術を私たちに与えてくれると私は確信しています。

人が心を開く瞬間に流す涙は、
内なる病巣を洗い流し
 感謝を招き入れるための空間をつくる

医道の日本 通巻674号 平成12年5月号 発表




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