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第四話
| 今回は犬と兎の命懸けの追走劇です。 その日は大木の無いなだらかな谷間に出かけました。 雨が降って流れた水で土がえぐれてできた、 幅2m〜3m、深さ1.5〜2mくらいの水路のような溝。 普段は水が有るか無いかのその緩やかな傾斜の周りを、 探索しながらゆっくり上っていきます。 3kほど上った頃でしょうか。 100mくらい先の方で、けたたましい犬の鳴き声が聞こえてきました。 驚いた私が急いで近づいて見ると、中年の男性が一人立っていました。 その視線の先には、30mほど離れた草叢の中を雄叫びを上げながら 猛烈なスピードで疾走する犬が。 少し雑種の混じった柴系の犬でした。 何を追っているのかと見ていると、 犬の少し先にはこれまた弾丸のような速さで縦横十文字に逃げ惑う兎の姿。 凄まじい追い駆けっこに息を呑んでいると、ピタリと犬の声が止まりました。 兎の姿を見失ったらしく、 吠えるのをやめて凄い勢いで辺りの匂いを嗅ぎまわり始めます。 どうやら兎の逃げた方向を探している様子です。 その間約30秒くらいでしょうか、 犬の息づかいしか聞こえない息詰まるような沈黙の後、 ある方向へ犬が突進していきました。 雑草と小木が生い茂る中、急斜面といわず水路の水の中といわず激しく吠えながら 猛然と疾走します。 姿が見えなくなってしばらくすると、また犬の声が止まりました。 やがて出てきた犬は、口にだらりとした兎を咥えていました。 どうやら兎は水路の溝の脇に出来た窪みに隠れていた所を 見つかったらしいのです。 犬は堂々と獲物を咥え、自分の主人のもとへ帰っていきました。 当時は重要な蛋白源として、山鳩、雉、鴨、野兎や猪などを食していました。 子供心にも、壮絶な場面を見たと思いました。 |