夢惑う世界 草紙<蜃気楼>
夢惑う世界 蜃気楼 その19 発行日 2000年11月27日
編集・著作者    森 みつぐ
  季節風
 陽が翳ると冷えるのも、ますます早くなり街路樹がすっかり紅葉(黄葉)し、葉を落とし始めている。枯れ葉の擦れ合う音が、もの哀しい心の隙間に染み渡る。
 学園通りには、大きな葉をまとったプラタナス(日本名:すずかけの木)の木が植えられている。(学園通りのプラタナスは、多分モミジバスズカケノキだと思う。)北方系の木なので、今でも青々している木もある。このプラタナスは、札幌に住んでいたとき、私の大好きなシンジュサン(ヤママユガの仲間)の幼虫が、この大きな葉っぱを食していたので良く覚えている。だからプラタナスを見ると、すぐに幼虫の食痕を探してしまう。
  言いたい放題
 明日の日本を見据えての教育改革が、佳境に入ってきた。学校や地域社会で議論が盛んに行われている。戦後55年の経済発展は、教育の賜物である。大企業の求める労働者に作り上げる教育を、国が行ってきたのである。経済の成長は、直接国の成長に結びつく。そして日本は、GDPでは世界有数の国となった。多くの染みを残して。これが民主主義の限界なのだろうか。それとも、まだまだ日本は、民主主義国家ではないのだろうか。
 染みと思っていたのが、戦後の2世代の間に、癌に成長していた。しかし企業は、未だに目の前の利潤を追いかけて、一番への競争に明け暮れている。教育改革は、学校だけの問題ではない。地域社会の問題であり、職場の問題でもある。そして長時間労働を強いて、家庭や地域社会を崩壊に貶めている企業の責任は大きいのである。企業国家にとって教育は、企業のためのものである。しかし、たった2世代の間に、幼い子どもたちの心に、癌は成長していたのである。もし社会が崩壊したら、企業はそれでも成り立っていけると思っているのだろうか。充実感のない忙しさは、労働者とその子どもたちに何をもたらしたのだろうか。
  つくしんぼの詩
 多くの海岸で、クラゲが大発生しているとのことである。そのために近海の魚が減少したり、原発の冷却用取水口に群れて発電の低下を招いているとのことである。クラゲによって生態系が危機に陥っているとのことだが、原因を突き詰めてゆくと、結局人間の行為に跳ね返ってくる。川は有機物で栄養価が増し、護岸工事は産卵場所を増やしている。自然状態での大発生は、いつしか沈静化してゆくのだが、この場合はどうであろうか。
  虫尽し
 先日、民家周辺でキタテハが翔んでいた。キタテハは、成虫のままで冬を越す。暖かい冬の日には、枯れ草の上で日向ぼっこをしている。冬籠もりをするチョウは、脂が乗っていて標本にすると、その脂が滲みだしてくる。日本列島を渡るアサギマダラは、この時季でも山で見かけるが脂が乗っているせいか、この寒い朝晩を乗り越えている。これからは脂が乗った人にも、いい季節が訪れる。
  情報の小窓
『お母さんが、乳児に合わせていくような環境としてのお母さんではない、自分の欲望を持ち、自分の都合を持ち、自分の感覚を持ち、自分の不安を持っているようなお母さんの部分を、乳児との関係にあまりにも早く割り込ませると、乳児ののんびりとした全体的な生きているという感覚を壊してしまうというわけです。・・・乳児の心の環境を形成していた「環境としてのお母さん」の早すぎる途絶などによって、精神病的な部分が出てくるということはありえます。』
 NHK文化セミナー「人間を探る 心のゆとりを考える(下)」藤山直樹著(日本女子大学教授)

Copyright (C) 2001 森みつぐ    /// 更新:2001年5月14日 ///