夢惑う世界 草紙<蜃気楼>
夢惑う世界 蜃気楼 その48 発行日 2003年11月16日
編集・著作者    森 みつぐ
  季節風
 暖かな立冬の日に、書籍代金の振り込みに郵便局に行って来た。家を出て暫くすると、民家の門柱にツマグロヒョウモンの黒い幼虫がよじ上っているのを見つけた。今年も沼津では、元気にツマグロヒョウモンが育っているみたいである。
 振り込みを終えての帰り道、今度は別の家の花壇で、ツマグロヒョウモンの雄が蜜を求めて緩やかに翔んでいた。秋日和である。ヤマトシジミもその傍らを、宙に舞っていた。そして何処からともなく、カネタタキの音が風に乗ってきた。
  言いたい放題
 衆院選が終わった。2大政党の一歩を踏み出す足掛かりとしたかった民主党は、大きな成果が上がった。3党連立の与党に最初から逆転する可能性は、野党にはなかったが、民主党の躍進振りは見事でもあった。
 “民間で出来ることは、民間で!”をスローガンとする小泉首相は、やっとの事で面目躍如となったが、首相の勢いに陰りが見え始めてきているようにも思える。
 “民間で出来ることは、民間で!”は、私には、見えてこない。相も変わらずスローガンだけが踊っている。弱者の乗り物であるバスは、地方で公共のバスが撤退し、そして私営のバスも撤退してゆく。儲からない路線からは、当然の如く撤退してゆく。そして地方に弱者が残り疲弊してゆくのである。“民間で出来ることは、民間で!”と言うならば、国の運営も民間に任せたら確実に良くなるのではないだろうか(私は、全くそうは思わないが)。
 また、暫くアメリカを追従する政策が、国と企業が中心として進むことだろう。競争至上主義、経済至上主義が更に礼賛され、弱者は、息の根を止められてしまう。
 ところで、今回の選挙の投票率は、60%を割っていた。この国の民主主義とは、何なのだろうか。
  つくしんぼの詩
 先日の新聞に、経済財政白書によると、「働く意欲のある人」が総人口に占める比率である「労働力率」は、60歳以上の高齢者でアメリカ、ドイツ、フランスと比べて日本が高いことを挙げて、高齢者の労働意欲の高さを語っていた。
 私は、このデータを読んで少し寂しさを感じざるを得なかった。日本人の就業意欲の高さは、自立心の無さを示し、自己の確立が不完全なために自分から行動できなく他人からの指示を待ち受けるための就業意欲なのである。家にいても、何もすることがないからなのである。会社に勤めて、そして滅私で働いた結果なのである。夢は、会社の中で霧散してしまった。悲しいことである。
  虫尽し
 棘の多い植物が群生している南インドのベッロール付近の道を歩いていた。道は簡易舗装されているが、凸凹道で人通りもない。そんな道を歩き始めた。
 暫く歩いていると、前方に黒い物が落ちている。近付いてゆくと、どうも甲虫みたいである。ひっくり返って死んでいる。それにしても大きい。アリが既に群がっていた。表を見ると白い大きな斑点を持った美しいゴミムシだった。“すごい!アリさん、ごめんね!!”
  情報の小窓
 『とくに大きな悩みがあるわけではないのだけれど、どこかむなしいという空虚感。それから逃れようと、人は仕事に遊びにと明け暮れます。もう立ち止まって、自分の心がむなしいこと、自分が退屈であることを認めてしまうと、たちまちにして「底なし」の泥沼に引きずり込まれていってしまう。それを恐れて現代人は、ますます生活のテンポを速め、絶えず自分を忙しくすることで感覚を麻痺させてしまおうとするのです。』
 NHKこころをよむ「生きがい発見の心理学「自分」を生きる「運命」を生きる[下]」諸富祥彦

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