夢惑う世界 草紙<蜃気楼>
夢惑う世界 蜃気楼 その 発行日 1999年10月25日
編集・著作者    森 みつぐ
  季節風
 先日、北海道の襟裳岬を訪れた。今年は、残暑が続いていて、未だにトンボやチョウが翔んでいた。しかし、やはり冷えるため動作が鈍くなっている。そのためか、車から逃げ切れなかったトンボが道端に転がっていた。その中に、ウスバキトンボがいた。ウスバキトンボは、亜熱帯・熱帯系のトンボである。6月頃、この辺りの空き地に飛んでいるトンボを見かけるが、アカトンボではなく、このウスバキトンボである。そして、このトンボは、世界中に広く生息する唯一のトンボで、私とはすっかり顔馴染みになっている。
  言いたい放題
 小渕内閣改造の発足記者会見において、2000円紙幣について発表があった。「経済効果は?」という質問に対して総理は、国民の利便性のみを強調していた。総理の手にしていた紙切れには、当然予想されうる質問の回答が書かれてなく、ただ英米仏などにおける25%程度の紙幣占有率を述べるだけであった。全く回答になっていない。まして、占有率は、ただ単に流通紙幣の種類と日銀の目論見によるだけであり、利便だから高占有率になるのではない。国民には、使用を拒むことはできないのである。
 利便性に関してだが、日本は元来、加減乗除をするのに算盤を利用してきた。算盤には、一と五の珠がある。日本人は、一と五だけで十分計算してきたのである。ここで二の珠を加えたところで、何の利便性があるのだろうか。
 現在の環境問題を含む多くの問題は、便利さのみを追求してきた結果である。これからの選択基準は、便利さではない。本当に必要かどうかである。日本のトップが、これでは、余りにも情けない。歴史に名前を残したいだけの名誉欲、もしくは強い劣等感の持ち主が行うことである。
  つくしんぼの詩
 アメリカの小さな町中に行ったとき、街中を歩いてみた。多くの店のショーウィンドウには、一杯商品が並んでいて、「Sale」の貼り紙があるのに、通りにも店内にも、人っこ一人いない。次の日、閑散とした街の意味が分かった。「Sale」は、店自体を売りに出す張り紙であった。多くの店が、ハイウェイに繋がるメインの道路に広い駐車所とともに出店されていた。この国は、車がないと暮らしていけない。当然、地域社会のつながりは薄れてゆく。私は、望まない。日本も似てきたのだが。
  虫尽し
 アフリカのサハラ砂漠以南の中西部に広がる熱帯雨林の国カメルーンにやってきた。飛行機の中からは、非常に緑豊かな土地だと見えたのだが、緑とは名ばかりで植林されたバナナやヤシが何処までも続いていた。そして丘陵に、ほんの僅かに残された林の中で、私は毎日、アリと戦っていた。噛み付かれると痛いのなんのって!!
  情報の小窓
 『成熟社会とは、その成員たちが多元的な価値観のもとにさまざまな経験を通して、各人の生き甲斐を発見し、それぞれに自分の道を歩んで行くところにこそ成り立つからである。最初からただ単一の価値観にとらわれ、しかもその追及が能率主義によって行われるならば、人は年をとり、高齢になるにつれて、二つの意味で、何もすることがなくなってしまう。』
 岩波親書「正念場−不易と流行の間で−」中村雄二郎著(哲学者)

Copyright (C) 2001 森みつぐ    /// 更新:2001年5月14日 ///