夢惑う世界 草紙<蜃気楼>
夢惑う世界 蜃気楼 その79 発行日   2007年2月18日
編集・著作者     森 みつぐ
  季節風
 まだ2月半ばだというのに、"こうも暖かいと寝ていられないよ!"と、アブラコウモリが飛んでいた。春の日差しが心地好いのは、動物たちも同じであろう。
 温められたアスファルトの隙間からは、濃い紫のスミレや真っ白なシロバナタンポポが、もう顔を覗かせていた。そう言えば、沈丁花の蕾も、数輪花びらを咲かせていた。薫り立つ春も、もうすぐ来そうだ。
  言いたい放題
 全く見えてこない政府の格差問題への取り組み。首相は、「成長しなければ果実は生まれない。」「景気を拡大することで、果実を家計にも広げる。」と言っているが、昨今の経済成長は、格差を前提に経済成長しているのである。低賃金の派遣社員、パートタイマーは、企業にとって使い捨てできる都合のいい労力である。
 首相は、「再チャレンジ可能な社会を作るための政策を推進してゆく。」と言うが、再チャレンジは、有能な人材が失敗したときのためのセーフティネットであり、派遣社員やパートタイマーの役には立たない。「非正規雇用者にも正規雇用者への道を開く。」とあるが、今でも、企業にとって都合のいい労働者は、正規社員に採用されるが僅かである。低賃金労働者の枠は、しっかりと守り通すのが企業である。
 前政権時に、格差を前提として経済成長するシステムが作られてしまった。それを今更、格差拡大するからと言って企業は、その既得権を手放したりはしない。戦後最長と言われる景気拡大は、社会の底辺層にいる人々の力に依るところが大きいのに、何の見返りもないどころか、更に、生活は悪化する方向にある。
 この構造は、先進国と後進国の関係と同じである。日本と言う国の中に、その構造を作り上げてしまった。だとすれば、その行く末は、もう見えているだろう。
  つくしんぼの詩
 今月初め、「東京大気汚染訴訟において、やっと国も和解協議に応じる考えを示した。」と報じるニュースがあった。
 昭和30,40年代の高度経済成長の影で、水俣病に代表される数多くの公害問題が起きた。しかし、企業や国は、明らかに因果関係があっても、それを認めようとはしなかった。それを見て育った私は、それから企業や国を信用しなくなった。それ故、私は、就労しても企業を信じなかったのである。
 いつの時代でも弱者は、強者に虐げられている。個人としては、その気がなくても利潤追求の組織に入ると、そのような行動をとるのが人間であろう。まだ、アスベスト問題などの公害問題はある。被害者への早急な救済を前提に、問題の解決に当たって欲しいものである。
  虫尽し
 タイ北部の山地の町メーサリアンに正午過ぎ、バスは辿り着いた。早速、ホテルを取り、時間もあるので歩くことにした。
 町の周辺は、木々に覆われた山々に囲まれている。ところが歩き出すと、なかなかそう云う山には辿り着かない。1時間ほど歩いて、やっと林の中に入ることができたのだが、思いの他、林内は乾燥して昆虫は余り見当たらなかった。ある時、網やズボンに、赤褐色の大きなアリが這い回っていた。"やな奴!"と思っていたら、ズボンの中で蠢いているような気がした。そして、"痛っ!!"咬みつかれたのである。ズボンを下ろして、不法侵入者を見つけ出した。帰り道、葉っぱを綴ったアリの巣があった。先ほどのアリ、ツムギアリである。痛いだけで後遺症がないので良かった。巣を突っつくと、アリたちが"何事か!"と、飛び出してきた。
  情報の小窓
『産業資本は、技術革新や新製品開発を通じて、価値体系を時間的に差異化することによって、剰余価値を得ます。しかし、その結果、たえまなく技術革新を行うことを強いられます。・・・(省略)・・・産業資本は世界を文明化するためにではなく、自らが存続するためにこそ技術革新を運命づけられているのです。無益というよりむしろ有害な技術の革新や商品の差異化も、資本が存続するためにこそ不可欠なのです。』
 岩波新書「世界共和国」柄谷行人

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