夢惑う世界 草紙<蜃気楼>
夢惑う世界 蜃気楼 その82 発行日   2007年8月19日
編集・著作者     森 みつぐ
  季節風
 お盆の日、札幌市民の山である藻岩山麓の斜面にあるお寺に、墓参りに行ってきた。札幌としては、珍しく30℃以上の日が4日間も続いた暑い日だった。親の体調を気にしながら、無事に終わった。
 その帰り、これまた久し振りに藻岩山山頂に、ロープウェイで上った。札幌の市街地は、高層ビルが建ち並ぶ景色にすっかり様変わりしていた。涼しげな風が吹き抜けてゆく山頂には、キアゲハが舞い、そして、本州では高山帯でしか見かけないベニヒカゲも舞っていた。秋が忍び寄って来ている。
  言いたい放題
 2007年度労働白書(厚労省)は、好調な企業実績が賃金上昇に結びついていない点を問題視し、・・(略)・・労働分配率の強化を課題に掲げた。その後、公表された2007年度経済白書(内閣府)は、格差是正のため低所得者層を支援する新たな制度が必要だと提言し、日本経済が成長して所得水準が上がっても、格差は拡大傾向にあると分析している。(新聞記事より)
 いつも厚労省も内閣府も、冷静に要因を分析し、提言を行っている。何故、規制緩和などの法の施行と共に、予想される問題点に対して、先んじて対策を講じないのだろうか。労働白書は、格差問題の要因として、@賃金が低い非正規雇用の拡大A業績・成果主義的な賃金制度の導入による正規雇用の中の賃金格差の拡大B裁量労働制の拡大などによる長時間労働と短時間労働への二極化の進展などを挙げているが、最初から、問題となることは分かっていたはずである。
 そして経済白書では、格差是正の具体案として、「所得税を減額する「税額控除」と社会保障給付制度を組み合わせて、低所得者は税金よりも給付金が多くなるようにする」とあるが、本来ならば、先に挙げた要因の是正が求められるのではないだろうか。
 企業側に優遇した諸政策を是正せず、税制を変更して対応することは、単に金銭面の歪みを是正するだけで、社会制度の是正にはならない。そして、同じく問題となっている労働者の「心の病気」の解決にはならないだろう。
  つくしんぼの詩
 札幌に来て3ヵ月半になる。自転車に乗る機会が、以前より増えた。5km離れた実家に行くときも自転車に乗り、国道の歩道をのんびりと走ってゆくのだが、いつも、自動車(強者)の横暴に辟易している。
 お店の駐車場から出てくる車が最初に止まるところは、歩道の手前であるはずであるのだが、多くの車は、車道の手前を停止線にして、歩道を完全に遮ってしまう。自転車が手前まで来ているのに、歩行者が手前まで来ているのにも拘らず、当たり前のように、平気で進んできて止まる。他者(弱者)の視点に立てない思いやりのない人(強者)が、非常に増えてきたように思えてならない。
  虫尽し
 台湾南東部の台東市から汽車に乗って南下し、金崙の駅に降り立った。街中を通り過ぎ、山へ向かって歩いて、果樹園の脇を通ると、小さな溜池があった。
 そこには、黒っぽい翅のトンボが、いっぱい舞っていた。"あっ!チョウトンボだ!!"初めてのチョウトンボかも知れない。じっとしてくれないが写真を撮り、網を開いた。ミニバイクが走ってゆくのを感じながた道路を背にして、じっとトンボを待った。
  情報の小窓
『彼によれば、自由な境遇にある個人は、いずれ孤独を感じるようになる。この孤独に耐えられる人はよいとして、耐えられない人は自由から逃避し、自発的に他者に隷属したり思考停止状態におちいったりする。大衆の行動様式は、この後者に相当する。かくして、大衆の自発的な服従のうえに、一部の人間による独裁が始まる。これが、ナチスによる政権掌握を可能にしたメカニズムだった。フロムの所説は、自由はかならずしも自律につながらないことを示唆している。』
 ちくま新書「日本の個人主義」小田中直樹

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