夢惑う世界 草紙<蜃気楼>
夢惑う世界 蜃気楼 その84 発行日 2007年10月21日
編集・著作者     森 みつぐ
  季節風
 10月も中旬になって、一気に札幌も冷えてきた。大陸からの低気圧が通り過ぎるたびに寒気が入り込み、気温が下がってくる。赤い実を付けていたナナカマドの葉も紅葉している。そして数日前まで、晴れた日には、元気に秋の妖精カンタンが鳴いていたのだが、もうその聲も聞こえてこない。
 定山渓温泉の上に、札幌市の水がめである豊平峡ダムがある。冷たい風が吹き荒ぶ中、ダムサイトを歩いていると、体は冷え切り、手はかじかんでしまった。山の上は、もう冬が来ているようだった。もうじき平地でも、雪が舞う季節が訪れるだろう。
  言いたい放題
 私は、家で仕事をしているときは、ながら族なので、昼間はラジオを聴いている。先日も、ラジオを聴きながらパソコンに向かっていたら、ニュースが流れてきた。「昨年度の労働者の有給休暇取得率が一昨年より0.5%減の46.6%、日数は1日減の8.3日」とのことだった。一部数字に正確さに欠けているような気がするが、有給休暇取得が下がっているのは、確かなことである(残念ながら、新聞とテレビには、本記事に関する報道はなかった)。
 このデータにおいても、近年の厳しい労働環境が伺える。有給休暇は、賃金を同じく、労働の対価として無条件に付与されるものである。ところが有給休暇は、賃金とは違い、取り難い職場雰囲気の中で、企業の管理下に置かれてしまっている。例えば、労働者は、賃金を使わないように監視され、そして使わなかった賃金は、企業が巻き上げてしまうようなものである。
 多くの強者である企業の利益は、弱者である労働者の有給休暇切捨て分やサービス残業分などの犠牲の上に成り立っているのである。このようなシステムは、豊かな国と貧しい国とのシステム(関係)と同じである。貧しい国の貴重な資源は、すべて豊かな国が掠め取ってゆくため、貧しい国は、いつまで経っても貧しいままである。このシステムは、格差社会の仕組みそのものでもある。
  つくしんぼの詩
 郵政公社が、10月から民営化された。私は、当初から郵政民営化には反対している。国鉄の民営化において、過疎地では多くの鉄道が廃線となり、更なる過疎化に苦悩している。それは、予想通りだった。
 同じく郵政民営化においても、過疎地ではサービスの低下が起きることは予想されていた。利益優先の民間会社が、儲からない所から撤退することは当たり前のことだろう。そして今、過疎地の簡易郵便局の閉鎖が起きてきている。ますますこの日本は、福祉国家から遠ざかろうとしているように思える。
  虫尽し
 台湾の南東部の海に浮かぶ島・蘭嶼島へ行ってきた。島は、沖縄の島々と同じように、台湾の若者たちで、大変賑わっていた。
 島を縦断する道を歩いて、昆虫採集をしていた。大きな木の幹に、一匹のカタゾウムシを見つけた。水色の格子模様をした美しいカタゾウムシである。写真を一枚撮り終えて、更に近付いてゆくと、幹からぽろりと地面に落ち、下草の中に消えてしまった。背後の道路をミニバイクに乗った若者たちの群れが通り過ぎてゆく中、下草を掻き分けながらの大捜査が始まった。
  情報の小窓
『人がある行為によって、このように痛めつけられるなら、呼べば応えが戻ってくるというミニマムな信頼可能性が、その人自身の中で切りつめられ、その結果、その人の生の可能性のいくつかの芽が潰される。災いと区別される悪の核は、このように人を痛めつけるというところにあり、悪によってそのような理不尽に痛めつけられることを、私は「いわれなく苦悩」と呼んで、こう述べた。「いわれなき苦悩が、これ以上ふえないようにすることは、善い」と。』
 岩波新書「善と悪−倫理学への招待」大庭健

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