和歌と俳句

飯田蛇笏

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畑中や接穂青める土の上

人々の眼のなまなまし涅槃見る

浴佛にただよひうかぶ茶杓かな

草むらや虎杖の葉の老けそめて

一と叢の木瓜さきいでし葎かな

折らんとすつばき葉がちや風の中

山ぞひや落花をふるう小柴垣

ぬぎすてし人の温みや花衣

門とぢて夜涼にはかや山住ひ

みめよくてにくらしき子や天瓜粉

人なつくあはれ身にそふかな

かたよりて田歌にすさむ女房かな

早乙女や神の井をくむ二人づれ

山蟻のわくら葉あるく水底かな

いちごつむ籠や地靄のたちこめて

愛着すうす黴みえし聖書かな

盂蘭盆の出わびて仰ぐ雲や星

送り火をはたはたとふ妻子かな

秋旅や日雨にぬれし檜笠

むら星にうす雲わたる初秋かな

鰯雲簀を透く秋のはじめかな

雲あひの真砂の星や秋の空

われを見る机上の筆や秋の風

ことよせてうたかく秋の扇かな

古ゆがむ秋の団扇をもてあそぶ