睡蓮に日影とて見ぬ尼一人
はざくらや翔ける雷蝶眞一文字
山賤や用意かしこき盆燈籠
身一つにかかはる世故の盆會かな
信心の母にしたがふ盆會かな
盆経やかりそめならずよみ習ふ
霊棚やしばらくたちし飯の湯気
形代やたもとかはして浮き沈み
筆硯わが妻や子の夜寒かな
秋虹をしばらく仰ぐ草刈女
山の戸やふる妻かくす秋の蚊帳
うちまぜて遠音かちたる砧かな
山風にゆられゆらるる晩稲かな
無花果や雨餘の泉に落ちず熟る
むら雨に枯葉をふるふささげかな
秋の蚊や吹けば吹かれてまのあたり
せきれいのまひよどむ瀬や山颪
桔梗の咲きすがれたる墓前かな
山寺や齋の冬瓜きざむ音
はつ冬や我が子持ちそむ筆硯
雲ふかく瀞の家居や今朝の冬
冬晴や伐れば高枝のどうと墜つ
冬凪ぎにまゐる一人や山神社
火屑掃くわが靴あとや霜じめり
遅月にふりつもりたる深雪かな
こもり居の妻の内気や金屏風
絵屏風や病後なごりの二三日
障子あけて空の真洞や冬座敷