和歌と俳句

飯田蛇笏

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尼寺の卯月八日の白躑躅

春蘭や巌苔からぶけしきにて

いばら野やさかりとみゆる山櫻

池の面にはらりとしたるかな

夕立や水底溯る渓蛙

蚊とんぼの袖にとりつく瀧見かな

苔の香や笠被てむすぶ岩清水

岸にうつ泳ぎの波や大夕焼

すはだかに熟睡したる籐椅子かな

殪つさまに光りもぞするかな

青蜥蜴さます嫉妬のほむらかな

桟や荒瀬をこむる蝉しぐれ

花闌けてつゆふりこぼす牡丹かな

盆過ぎやむしかへす日の俄か客

なきがらや秋風かよふ鼻の穴

ひるを臥て展墓のゆめや秋の風

瀧壺や人のたむろす秋日和

秋雨や田上のすすき二穂三穂

秋雨や禮容客におのづから

法廷や八朔照りのカンナ見ゆ

生き死にのほかなる鳴子一二聲

岩淵や棲むめる鶺鴒一とつがひ

たましひのたとへば秋のほたるかな

寂莫と秋の蛍の翅をたたむ

爐におちしちちろをすくふもろ手かな