和歌と俳句

飯田蛇笏

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冬晴れや次ぐ訪客にゆめうつつ

黒坂やしぐれ葬の一つ鐘

時雨来やわらびかたむく岨の石

山平ら老猿雪を歩るくなり

家守りて一巻もとむ暦かな

いたつきや芭蕉をゆめむ冬座敷

足のべてこだはりあつき湯婆かな

燃えたけてほむらはなるる焚火かな

冬の蠅ほとけをさがす臥戸かな

正月の玉の日和のいらかかな

園の端の木立おもてや初がすみ

聴きとむるゆかりの宿のはつ鼓

早春の日のとろとろと水瀬かな

春立つや山びこなごむ峡つづき

渓橋に見いでし杣も二月かな

きさらぎの墨滓固き硯かな

如月の大雲の押す月夜かな

春さむき月の宿りや山境ひ

行くほどにかげろふ深き山路かな

月の戸に山風めぐる雪解かな

ほど遠く深山風きく雪解かな

巌苔もうるほふほどの雪間かな

焼原や風真昼なる影法師

春愁のまぼろしにたつ佛かな

天気よき水田の畔を焼きはじむ