和歌と俳句

飯田蛇笏

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花廛なる茶の散り花も見られけり

雪山をはひまはりゐるこだまかな

かたぶきて陽のさす楢の宿雪かな

積雪に夕空碧み雲の風

樺の幽らめて樅の巨陽いづ

聖樹燈り水のごとくに月夜かな

手どりたる寒の大鯉光りさす

しろたへの鞠のごとくに竃猫

荒神は瞬きたまひ竃猫

毛糸編む牀の愛猫ゆめうつつ

しら雲に鷹まふ嶽の年惜しむ

蓖麻の實眠むるより初しぐれ

雲しきて山廬の注連井年迎ふ

繭玉に燈明の炎を感じけり

青猫をめでて聖書を読み初む

読初や錦古れども湖月抄

帆をたえて港路の雨温くき春

奉教の獻花たづさへ温くき春

厩の神泉の神に寒明け

寒明けし船渠の光り眼を囚ふ

冴返る夜を遊楽の頸飾

野兎ねらう焼け木の鷹に雪解かな

春殿の風の凶鴉に日の光り

草萌や寺院の吊る鸚鵡籠

山桐の大蘖に宿雪尽く