和歌と俳句

飯田蛇笏

山響集

前のページ<< >>次のページ

風あらぶ臥待月の山湯かな

湯治づれ草履してふむ秋の土

湯気こめて巌の野菊をさかしむる

湯気舞うて男神女神に露の秋

露の巌乙女の草鞋結ばせぬ

高原光花壇は土の鎮まれる

嶽離る夏雲みれば旅ごころ

五月晴ゑのころ草の穂は曲る

雨蛙鳴きゐる穂麦さやぎけり

合歓咲けり蜂飄として巣を忘る

老鶯に谷ひえびえとこだましぬ

夏草は闌け高原の道通ず

鵜舟並み瑞の大嶽雲新た

朝露にひたる籠の鵜影ひそむ

花活くる袂くはへて鵜匠の娘

ゆかた着の帯は錦繍鵜飼船

半玉の帯の鈴鳴る鵜飼船

はやり鵜に金銀の翳火籠ちる

水翳を曳くはやり鵜に鮎光る

篝り去る遊船の舳に夜の秋

金華山軽雷北に鵜飼了ふ

金華山大瀬を闇に夜の秋

河鹿鳴く瀬を幽かにす金華山

風騒の夜を水無月の館かな