和歌と俳句

飯田蛇笏

山響集

前のページ<< >>次のページ

和歌の浦あら南風鳶を雲にせり

群燕に紀伊路の田居は枇杷熟るる

水無月の雲斂りて和歌の浦

夏早き燈影に濡るる蘇鉄苑

翼張る窓の蘇鉄に蚊遣香

瀾掠む微雨かがやきて夏薊

渦潮の底礁匐へる鮑とり

夏潮を出てべんべんと蜑の腹

葦咲いて蜑の通ひ路ながし吹く

綸吹かれ潮かがよひて土用東風

沖通る帆に黒南風の鴎群る

磯山に霖雨小歇みに蝉しぐれ

僧こもる菩薩嶺のまた新た

雲水に大鷲まへる雪日和

祷る窓かもめ瀟酒に年立ちぬ

年新た嶺々山々に神おはす

老の愛水のごとくに年新た

松すぎし祝祭の燈にゆきあへり

獣園の日最中にして羽子の音

遣羽子にものいふ眼を見とりけり

雲こめて巌濡れにけり松の内

奥嶺路に春たち連るる山乙女

復活祭ふところに銀一と袋

マリヤ祀る樹林聖地の暮雪かな

壁爐冷え聖母祀祭の燭幽か

ともしつぐ燈にさめがたき寝釈迦かな

お涅槃に女童の白指触れたりし