和歌と俳句

石田波郷

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窓は灼け額ぞ堆き室を見たり

路地狭く隣家の蚊帳に胸裸あり

川臭き昼餐夏痩はじまりぬ

片影やひとみごもりて市の裡

日覆に少女は水を滝なさしめ

冷房の鏡中にわがすわりたり

坂の上たそがれ長き五月憂し

夜風入る灯を高く吊れば夏めきぬ

ひとの家に頽れたりし芥子を思ひ寝る

日出前五月のポスト町に町に

高層の窓に百合挿せり五月尽

頸あをき少年と対す百合の前

ひとり居る端居の影が路地に落つ

ひとの家に朝日があつし嗽

少年に蛾のつきまとひ避暑の家

ひととゐて落暉栄あり避暑期去る

青林檎ひとの夏痩きはまりぬ

萩青き四谷見附に何故か佇つ

首夏の家英霊還り電車より見られ

首夏の家朝に深夜に貨車轟き

しつつ菓子食へり人をもてなすと

しつつ大いに笑ひ汗垂れたり

梅雨はげし右も左も寝てしまふ

梅雨の門傘を掴みて立ち出づる

梅雨の街あはれ出水のなつかしき