和歌と俳句

石田波郷

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

喜劇みしを拭きつつ言無かり

駒場町長梅雨坂を樹を奔る

梅雨の町向日葵がくと坂に垂れ

小劇場かんかん帽を抱く一刻

袴暑し金を集めて街ゆけば

夜も汗し独り袴を敷いて寝る

夜涼の坂英霊車来る如何にせん

兄妹に蚊香は一夜渦巻けり

旧山河東京の辺の暑き夜に

の朝愛憎は悉く我に還る

蝉の朝軒つづきなる人の瞳

百日紅ごくごく水を呑むばかり

髪結ひが子を抱きはしる大旱

倒れたる夜の向日葵酔眼に

独り見つつ椎の若葉をうべなへり

初鰹ひとの母子を身の辺

桐の花昼餉了るや憂かりけり

垂れて鳶を聞くなり松隠れ

別れ来て対ふ声なき扇風器

夏も徂く麻布の空の晩鴉かな

女来と帯纏き出づる百日紅

椎若葉坂にもあへぎ訪ね来しか

桐の花爆音山の湯にも飛び

爆音や桐は花散り赭の殻

椎若葉一重瞼を母系とし

椎若葉わが大足をかなしむ日