和歌と俳句

石田波郷

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朝森はえごの匂ふかも療養所

えごの花一切放下なし得るや

咲く香血を喀く前もその後も

君とわれ夏百日を堪へ得んや

妻が来し日の夜はかなしほととぎす

よろめきて孤絶の蚊帳をつらんとす

かなしベットにすがる子を見れば

向日葵にひたむきの顔近づき来

百日紅ちりては咲くや死にもせず

たはやすく過ぎしにあらず夏百日

噴水の耳打つ手術前夜寐ず

緑蔭を看護婦がゆき死神がゆく

手術経てつぶせり左手に

卯の花や仰臥の指に葉一枚

夕虹や三年生き得ば神の寵

緑さす右鎖骨下の創あはれ

えごの花の香をよぎりたる配膳車

新樹下を馳す看護婦面もわかず

萬緑は過ぎ来し方も押しつつむ

蟻地獄病者の影をもて蔽ふ

芍薬や枕の下の金減りゆく

ほととぎすすでに遺児めく二人子よ

汗ばみて余命を量りゐたらずや

乙女獲し如きかも薔薇を挿して臥す