和歌と俳句

石田波郷

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更衣胸の創痕うち嚢む

十薬の香墓に子とあそびをり

墓群よりも十薬ひしと寄り合へる

手花火を命継ぐ如燃やすなり

捕蟲網踏みぬ夜更の子の部屋に

夜の腕にかげろふ触れし梅雨入かな

夾竹桃戦後の病みな長し

額の花病に隠るることなかれ

を摶つて頬やはらかく癒えしかな

一点の亡骸の裾に侍す

病者来て隠れ顔なる餓鬼忌かな

夕づく 柏大樹をめぐりをり

への道後れゆく安けさよ

狐舎を見る朱の日傘を傾けつ

蝸牛も岐れ合ふ枝もわかわかし

有刺鉄線ゆるめず梅雨の療養所

雲土管甕しんかんと簾透く

紺暗く夜空は簾ふちどりぬ

青比丘や鬼灯市に抽んでて

麦の穂の陰も明るし布良の道

蛍火や疾風のごとき母の脈

母病めり橙の花を雀こぼれ

蟹赤し遠山あをし母睡し間

金魚玉朝一点の煤うかぶ

妻子にも後れ斑猫にしたがへり