和歌と俳句

石田波郷

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沙羅の花捨身の落花惜しみなし

夕立の波打つ朴の樹紋かな

沙羅の花緑ひとすぢにじみけり

ほしいまま焼く香あり病家族

掬む双膝双掌ひしと合はせ

わが胸の陥没部位よ菖蒲泛く

尊きかも竜馬山房に黴びし墨

雀らに泰山木の黙の花

沙羅の花ひとつ拾へばひとつ落つ

鴨脚草けふ一歩だに土踏まず

病棟に病連衆ありてまり花

松風に蚊帳配られて真白なり

鹿子草こたびも手術寧からむ

夏柑やどつと笑ひて創痛む

紫陽花や帰るさの目の通ひ妻

桜桃を洗ふ音個室ひびきけり

やうやくに睡くなりけり蛍籠

卯の花腐し君出棺の刻と思ふ

山鳩の機嫌の歌よえごの花

病室の隅の未明やアマリリス

下界飛ぶ朝涼雀羽十字

日の在り処よぎりし鳩や朝ぐもり

夕顔のひらく光陰徐かなり