和歌と俳句

石田波郷

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枇杷啜る双手に血色戻りけり

栗の花林掠むる如くなり

雨搏てる沙羅の落花や石の上

栗の花尾を真直に尾長鳥とぶ

わが胸は小さくなりぬ花擬宝珠

蛍籠われに安心あらしめよ

病よし壺の紅花やや乾び

合歓見むと思へど試歩を伸ばし得ず

清拭の垢ほろほろと雲の峯

河童忌の朝の薬は八つ数ふ

ひとの死と晨の灯蛾とわかちなし

筍飯届きて妻の来ぬ不安

立泳ぐさまに鳩寄る緑立つ

実櫻へ尾長鳥降下の尾羽を割り

豆飯食ふ舌にのせ舌に力入れ

夏橙剥く指力なほ存す

大夏柑むさぼりし息をつぎにけり

見舞びとに教へむえごの花遠し

師が賞づる新茶は狭山賜ひけり

下闇を燃え出づる合歓のみどりかな

病室に降る煤のあり半夏生

わが死後へわが飲む梅酒遺したし

枝移る毛蟲の列や朝ぐもり

着て臥せば病衣なりけり鉾浴衣

枇杷啜る妻を見てをり共に生きん