和歌と俳句

石田波郷

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草の穂の飛びきて熱き顔の前

昼出でていとどが赤し熱の中

食ふや遠くかなしき母の顔

血を喀いてきく顔をかなしむや

鶏頭よ子よわれ咳をとどめ得ず

秋立つも声音震動せず右季肋部

たはやすく過ぎしにあらず夏百日

桔梗や男も汚れてはならず

萩の中わが医師ゆけり點頭す

妻ゆきし萩しづまりぬ道を閉ぢぬ

古郷忌の病患を襲ぎ臥せるかも

歳月や亡師さながら芙蓉に病む

名月や格子あるかに療養所

窓も狭に良夜の患者立ち群れつ

今日の月わがラッセルをききすます

蟲の樂遠木菟は臺詞めく

秀野忌や新免夫妻珠のごと

野分あと子等の許なる妻を戀ふ

の朝肋あはれにかき抱く

朝焼やベッドを下りて糞まる間

露燦々胸に手組めり祈るごと

金の芒はるかなる母の祷りをり