和歌と俳句

石田波郷

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一夜寝て白光の外科個室

燦々腋をあらはに剃られをり

花圃に水汲める見てをり手術前

饑冴えて花圃の花々ひた紅し

担送車に見しは鶏頭他おぼえず

冷じき黄裸なるとき孤りなり

遠し肢を緊縛されつつをり

意識裡に医師爽かに笑ひをり

たばしるや叫喚す胸形変

秋の暮幾人かわれを目守りゐき

秋の暮水原先生もそこにゐき

鮮烈なるダリヤを挿せり手術以後

鰯雲ひろがりひろがり創痛む

麻薬うてば十三夜月遁走す

痰はきて静まる喉や鵙遠し

七夜経て露の青槇日浴びそむ

流れきて露のピアノの音肋打つ

秋の暮洩罎泉のこゑをなす

力つくして山越えし夢露か霜か

露に起てば胸の重さよ生くる限り

黄葉との間に雨降り麺麭焼けり

黄葉はげし陰をも拭かれゐたりけり

黄葉はげし乏しき金を費ひをり

咳き呆けぬ柚味噌の箸をもちながら

マルメロ享けぬ二次成形を告げられて

マルメロをつかめる五指の曲折よ

マルメロを支ふる左胸の上

マルメロの量感二次成形もただ堪へむ

よ遠母に再た手術すと告げ得むや