和歌と俳句

石田波郷

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しんしんと子の血享けをりリラ匂ひて

吸呑のレモンの水や春の暮

見舞のリラ葉をひろげけり春の雨

八十八夜血色得し手の裏表

立春の巨き鴉に驚きぬ

春曙林来る灯のひとつ見ゆ

雪降るか立春の暁昏うして

はるかなる地上を駈けぬ猫の恋

夜は熱の無ければ起きて雛あられ

木移りをしきりに鳩や西行忌

鳩尾長総出の日なり彼岸前

師を仰ぎ春の彼岸の入盈ちぬ

師のかげに夫人はそと賜ふ

老師来ませしよりの日数よ菫籠

病床にけふの椿は明石潟

胸に享く復活祭の染卵

病室にリラの香あり復活祭

暁の病室白木蓮の舞出でむとす

仏生会くぬぎは花を懸けつらね

ほしいまま旅したまひき西行忌

萬愚節昼の酸素の味わるし

土筆煮て「野道」の著者に見舞はるる

春の雪病み臥すものらさざめきて