和歌と俳句

石田波郷

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月食は駅の時刻にたがはざる

スキー列車月食の野を曲るなく

スキー列車あさき睡を歪み寝る

雪降れり月食の汽車山に入り

雪の嶺且つ褐色の木を蔽ふ

外套を黝くぞみたるのみに寝る

あをあをと雪の温泉は日を失へり

闇を来て覗きし室に朱の壁炉

書の白さ外套を脱ぎ痩身なる

物語壁炉が照らす卓の脚

礫敷き朱欒ころがれり樹に照れり

海の鳥来て木隠りぬ朱欒の木

犬若し一瞬朱欒園を抜け

さぶき空朱欒園裡を溝はしり

雪嶺よ女ひらりと船に乗る

冬霧のしろし相見る彼ぞ憂き

雪嶺の発破を眉のへに聞けり

硫黄精錬所見えず雪原うち匂ひ

昼餐どき毛皮の狐憂き睡り

人黒く二重廻しの蹲り食ふ

マネキンぞの羅見られつつ食へり