起ちて灯し灯して座り秋夕べ
蜻蛉の微のまぎれずに秋の天
少女期は何か食べ萩を素通りに
鯊を釣る女の執念一途なる
盆の月お山の空は夜もあおし
盆棚のうしろは深谷霧の海
鶴翼を左右に張りたる湾の秋
歌枕ゑのころ草に碑を据ゑて
稲架かげにわが身さながらうづくまる
富士薊触れんとしたるのみに刺す
桔梗を土に横たへ新帰元
火祭を熱や熱やと轡蟲
火祭のふかく灯して上文司
火祭の幣ひろひろと御師の宿
湖の村祭してをる帰燕かな
蟲の声月よりこぼれ地に満ちぬ
伐株のおもて傾く深山霧
落日の大団円や秋の潮
豊満の美に佛性や紅芙蓉
らくがきに句碑は汚れし富士薊
女童らお盆うれしき帯を垂れ
木道に孤影わがひき秋深し
はたはたのとべるはるかに礁富士
秋の雲愁のごとく刷けるかな