和歌と俳句

富安風生

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

富士薊触れざる指を刺しにけり

露けしと露草も目を見張りけり

馬追のはつたと落ちし橋の上

爪打ちに応ふる鐘の秋の声

こときれてなほ邯鄲のうすみどり

邯鄲の死装束の銀光り

美しき死を邯鄲に教へらる

虚子も亡くいくさも遠し秋の雨

息杖を立つれば待ちて赤蜻蛉

千万の露草の眼の礼をうく

一刀に斬りさげし根雪秋の富士

老の胸驚き易く一葉落つ

鉢について来て紅葉して無名草

身にしみて人には告げぬ恩一つ

邯鄲の死こそ上品上位佛

玲瓏として邯鄲のむくろかな

長き夜のしんの夜中の声なき声

秋茄子の花と咲けるをあはれがる

朝寒のひとり覚めをる富士とわが

見つめをる月より何かこぼれけり

身疲れ神爽かに寝覚かな

一片の紅葉を拾ふ富士の下

一片の紅葉の何を訴ふる

二た流れ和して同ぜず水の秋