和歌と俳句

高浜虚子

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緑蔭に網を逃げたる蝶白し

蛍見や声かけ過ぐる沢の家

吊り下げし仮の日除の蓆かな

を見て思ひ思ひに美しき

の輪の中に走りぬ牧の柵

葉の紺に染りて薄し茄子の花

夕立のあとの闇夜の小提灯

乾坤の夕立癖のつきにけり

夕立の来て尚残る暑さかな

夕焼の黄が染まり来ぬ夕立あと

涼しさの肌に手を置き夜の秋

夕暮の薄暗がりに茄子のぞき

風あまり強くて日傘たたみもし

雪渓のここに尽きたる力かな

前通る人もぞろぞろ橋涼み

橋涼み温泉宿の客皆出でて

客を好む主や妻や胡瓜もみ

取敢ず世話女房の胡瓜もみ

胡瓜もみ世話女房といふ言葉

蜜豆をたべるでもなくよく話す

川向ふ西日の温泉宿五六軒

裸子をひつさげ歩く温泉の廊下

浩瀚の秋まで続く曝書かな

夏痩や心の張りはありながら

夏痩の人ことごとに腹を立て

夏痩の言葉嶮しき内儀かな

腹の上に寝冷えをえじと物を置き

中堂に道は下りや落し文