和歌と俳句

高浜虚子

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一弁を仕舞ひ忘れて夕牡丹

大杉を神とし祭り村祭

細長き床几新らし杜若

夏蝶のつと落ち来りとび翔り

一面に蓮の浮葉の景色かな

湯の島の薫風に舟近づきぬ

手古奈母おはぎに新茶添へたばす

静かさは筧の清水音たてて

緑蔭の道平らかに続きけり

木蔭なる池の蓮はまだ浮葉

セルを着て暑し寒しと思ふ日々

老眼に炎天濁りあるごとし

たらたらと地に落ちにじむ紅さうび

溝川に何とる人や五月雨

梅雨の壁ぬれて乾きて又ぬれて

明らみて一方暗し梅雨の空

万緑の万物の中大仏

濃く淹れし緑茶を所望梅雨眠し

梅雨眠し安らかな死を思ひつつ

といふ間に用事たまりて梅雨眠し

暑き日は暑きに住す庵かな

日蔽が出来て暗さと静かさと

大玻璃戸相しめ暑からず滝の宿

旅衣汗じみしまま訪ねくれ

森の中につきぬけてをる西日かな

百尺の裸岩あり夏の海

葉をかむりつつ向日葵の廻りをり