松風をうつつに聞くよ古袷
初秋や蝗つかめば柔かき
咳ひとつ赤子のしたる夜寒かな
霧雨や鬼灯残る草の中
冬瓜にこほろぎ来るや朝まだき
秋風に立ちてかなしや骨の灰
塗り膳の秋となりけり蟹の殻
山もとの夜長を笠のゆくへかな
木石の軒ばに迫る夜寒かな
うすうすと曇りそめけり星月夜
秋風や甲羅をあます膳の蟹
木石を庭もせに見る夜寒かな
据ゑ風呂に犀星のゐる夜寒かな
朝寒や鬼灯のこる草の中
秋さめや水苔つける木木の枝
秋風や秤にかかる鯉の丈
手一合零余子貰ふや秋の風
水引を燈籠のふさや秋の風
風さゆる七夕竹や夜半の霧
煎薬の煙をいとへきりぎりす
幾秋を古盃や酒のいろ
ぬかるみにともしび映る夜寒かな
木石の庭に横たふ夜寒かな
行秋の呉須の湯のみや酒のいろ