和歌と俳句

竹下しづの女

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大いなる弧を描きし瞳が を捉ふ

土蜂や農夫は土に匍匐する

痩せ麦に不在地主の吾が来彳つ

小作より地主わびしと麦熟る

藍を溶く紫陽花を描くその藍を

偸みたる昼寝芳し事務の椅子

的礫や風鈴に来る葦の風

風鈴や古典ほろぶる劫ぞなき

風鈴に青葦あをき穂を孕む

瑞葦に風鈴吊りて棲家とす

軒ふかしこの風鈴を吊りしより

翡翠の飛ばぬゆゑ吾もあゆまざる

翡翠に遅刻の事は忘れ居し

笹枯れて白紙の如しかたつむり

黄塵を吸うて肉とす五月鯉

五月鯉吾も都塵を好みて棲む

緑樹炎え日は金粉を吐き止まず

緑樹炎え割烹室に菓子焼かる

颱風に髪膚曝して母退勤来

汗臭き鈍の男の群に伍す

額に汗しいよいよ驕る我がこころ

そくばくの銭を獲て得しあせぼはも

小作争議にかかはりもなくとなる

おばしまにかはほりの闇来て触るる

月の名をいざよひと呼びなほ白し