和歌と俳句

夏目漱石

此春を御慶もいはで雪多し

正月の男といはれ拙に処す

色 々の雲の中より初日出

初鴉東の方を新枕

我に許せ元日なれば朝寝坊

金泥の鶴や朱塗の屠蘇の盆

宇佐に行くや佳き日を選む初暦

ぬかづいて曰く正月二日なり

松の苔鶴痩せながら神の春

神かけて祈る恋なし宇佐の春

呉橋や若菜を洗ふ寄藻川

元日の富士に逢ひけり馬の上

蓬莱に初日さし込む書院哉

光琳の屏風に咲くや福寿草

招かれて隣に更けし歌留多哉

追羽子や君稚児髷の黒眼勝

新しき願もありて今朝の春

屠蘇なくて酔はざる春や覚束な

御降になるらん旗の垂れ具合

隠れ住んで此御降や世に遠し

初日の出しだいに見ゆる雲静か

独居や思ふ事なき三ケ日

播州へ短冊やるや今朝の春

松立てて門鎖したる隠者哉

万歳も乗りたる春の渡し哉