和歌と俳句

夏目漱石

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上画津や青き水菜に白き

菜種咲く小島を抱いて浅き川

棹さして舟押し出すや春の川

ありて白き家鴨に枝垂たり

魚は皆上らんとして春の川

行く春を剃り落したる眉青し

春雨の夜すがら物を思はする

一尺のを座右に置く机

春雨の隣の琴は六段か

瓢かけてからからと鳴る春の風

鳥籠を柳にかけて狭き庭

三条の上で逢ひけり朧月

片寄する琴に落ちけり朧月

行き行きて朧に笙を吹く別れ

搦手やはね橋下す朧月

有耶無耶の近頃緑也

颯と打つ夜網の音や春の川

永き日を太鼓打つ手のゆるむ也

湧くからに流るるからに春の水

禰宜の子の烏帽子つけたり藤の花

春の夜のしば笛を吹く書生哉

海を見て十歩にたらぬ畑を打つ

花一木穴賢しと見上たる

仏かく宅磨が家や梅の花

ゆゆしくも合羽に包むつぎ木かな