和歌と俳句

夏目漱石

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春風に祖師西来の意あるべし

禅僧に旗動きけり春の風

鞭つて牛動かざる日永かな

わが歌の胡弓にのらぬかな

煩悩の朧に似たる夜もありき

春此頃化石せんとの願あり

仏画く殿司の窓や梅の花

手を入るる水餅白し納屋の梅

奈良漬に梅に其香をなつかしむ

たのもしきの足利文庫かな

明た口に団子賜る梅見かな

いざ梅見合点と端折る衣の裾

玉蘭と大雅と語る梅の花

蒟蒻に梅を踏み込む男かな

梅の花千家の会に参りけり

碧玉の茶碗にの落花かな

駒犬の怒つて居るや梅の花

筮竹に梅ちりかかる社頭哉

封切れば月が瀬の梅二三片

ものいはず童子遠くの梅を指す

梅の詩を得たりと叩く月の門

黄昏の梅に立ちけり絵師の妻

月に望む麓の村の梅白し

瑠璃色の空を控へて岡の

暁の梅に下りて漱ぐ