和歌と俳句

夏目漱石

10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20

春寒の社頭に鶴を夢みけり

布さらす磧わたるや春の風

旅に寒し春を時雨のにして

永き日や動き已みたる整時板

加茂にわたす橋の多さよ春の風

雀巣くふ石の華表や春の風

花食まば鶯の糞も赤からん

恋猫の眼ばかりに瘠せにけり

藤の花に古き四尺の風が吹く

日毎踏む草芳しや二人連

二人して にかしづく楽しさよ

鼓打ちに参る早稲田や梅の宵

青柳擬宝珠の上に垂るるなり

の日毎巧みに日は延びぬ

飯蛸の一かたまりや皿の藍

飯蛸や膳の前なる三保の松

春の水たむるはづなを濡しけり

連翹に小雨来るや八つ時分

花曇り尾上の鐘の響かな

強力の笈に散る かな

南天に寸の重みや春の雪

真蒼な木賊の色や冴返る

塩辛を壺に探るや春浅し

名物の椀の蜆や春浅し