和歌と俳句

夏目漱石

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蛤とならざるをいたみ菊の露

神垣や紅葉を翳す巫女の袖

白菊に酌むべき酒も候はず

白菊に黄菊に心定まらず

旅の秋高きに上る日もあらん

秋風や茶壺を直す袋棚

醸し得たる一斗の酒や家二軒

京の菓子は唐紅の紅葉哉

秋風の一人をふくや海の上

稲妻の砕けて青し海の上

絵所を栗焼く人に尋ねけり

礎に砂吹きあつる野分かな

栗を焼く伊太利人や道の傍

栗はねて失せるを灰に求め得ず

渋柿やにくき庄屋の門構

筒袖や秋の柩にしたがはず

手向くべき線香もなくて暮の秋

黄なる市に動くや影法師

きりぎりすの昔を忍び帰るべし

招かざる薄に帰り来る人ぞ

伏すの風情にそれと覚りてよ

白菊にしばし逡巡らふ鋏かな

女郎花を男郎花とや思ひけん